運転士兼車掌 |プロフェッショナル夢名鑑

地元に根付く私鉄だからこそ、お客様との交流を大切にしています。

会津鉄道株式会社の前で。
その日のスケジュール確認は敬礼で点呼するそう。

新國さんはどのような仕事をされているのですか?

新國 入社後はまず駅員として働いていました。駅員と聞いたときは、切符発売の仕事くらいだと思っていて。けれど、実際はそれ以外に運行状況のアナウンスから駅周辺の草刈りまで、1人で何役もこなさないといけなかったんです。駅に関することは全て駅員がやる、という状況が思っていた仕事と違ってギャップを感じることもありましたね。中でも、会津鉄道沿線は豪雪地帯が多いので除雪作業が本当に大変でした。列車が遅れればお客様にも迷惑がかかってしまうので、冬の間は始発列車が定刻に出発できるよう午前3時過ぎには除雪するんですよ。

どのくらいの期間、駅員として働いていたのですか?

新國 6年です。その間、私は主に会津田島駅での勤務でした。実際に働く中で切符の種類や条件などを覚えたり、利用するお客様と接したりしながら勉強していきましたね。それから、車掌として列車の中で仕事をするようになりました。駅員時代からも専門知識などの研修がありましたが、車掌になってからはさらに運転士になるための勉強も始まったんです。運転士はお客様の命を預かる重大な仕事なので、段階を踏んで勉強していきました。

実際に運転士になるまでに、どのような過程があるのですか?

新國 運転士の資格を取得するためには、身体検査などの他に動力車操縦者養成所で講習を受けるか、車の免許と同じで筆記試験に合格しなければいけません。試験は様々な列車に関する省令や規則、運転理論、一般常識が出題されます。試験は年に2回しか実施されないので、受験者は一発で合格するために必死で勉強します。私も試験を受けたので、そのときはたくさん勉強しましたね。今、筆記試験の合格率は東北地区で約90%ですが、高い合格率になるのもそれだけ受験者が勉強して臨んでいるからなんです。筆記試験に合格したら、そこから技能の練習に入ります。私も、ベテランの運転士についてもらって2ヶ月間みっちり技能講習を受けました。その後、技能試験に合格すると動力車操縦者運転免許が取得できます。

仕事の前日は飲み過ぎ・食べすぎに特に気を付けている新國さん。体調管理も運転士の大事な仕事のひとつです。

初めて運転士として運転したとき、どのような気持ちでしたか?

新國 実は、私は初めての運転時にエンジンがかからないという車両故障が起きてしまったんです。まさか初めての運転でトラブルに遭遇するとは思ってなかったのでとても焦ってしまいましたね。定刻までに出発準備をしなければ、と時間との戦いにもなりましたから。なんとかエンジンがかかって定刻どおりに出発したときには、緊張よりもホッとした気持ちになっていましたね。運転士になって7年になりますが、このことが一番印象に残っています。

いきなりのトラブルだったのですね。そんな際はどのように対処するのですか?

新國 運転士の試験では、車両の点検や故障に対する応急処置に関する項目があるので一通りの方法は勉強しているんです。だから、その方法で対処していきました。ただ、実際に勉強した内容をいきなり実践することになるとは思わなかったので戸惑いましたね。それからはこの経験を生かし、トラブルが起きないよう、常に点検や安全確認は入念に行っているんですよ。

基本のアナウンスもタイミングや言い方、頻度は運転士によって様々。駅員や車掌を務めた経験を生かして考えています。

運転士としてのやりがいを感じるのはどんな時ですか?

新國 利用するお客様が楽しそうに乗っていて、降りる際に「ありがとう」と言ってもらえたときですね。会津鉄道は運転席近くのドアから降車するので、その時に声をかけてもらえるとこの仕事をしていて良かったと思います。運転中は安全に関わるのでお話はできないのですが、駅に停車中の時であれば話しかけてもらえるほうが嬉しいですね。地元に根付く鉄道だからこそ、お客様との交流を大切にしたいんです。私自身、もともと地元地域に貢献したいという思いからこの仕事に就いたので。

お客様に対してどのようなことを心がけているのか?

新國 駅員や車掌としてお客様と接した経験があるからこその強みを生かして、列車がやむを得ず遅れる場合のアナウンスを考えています。お客様はどんな情報が欲しいのか、お客様の気持ちに寄り添うような内容を伝えることを心がけているんです。それから、私たち運転士も観光で訪れるお客様からの質問にも応えられるようにしています。さらに、今はおもてなしの一環で会津弁での接客も行っているんですよ。

鉄道運転士を目指す子どもたちへメッセージをお願いします。

新國 運転士になるためには、専門知識を身につけなければいけません。私も入社して5~6年かけて専門用語を覚えていきました。さらには、距離や時刻などの問題では計算方法も特殊で、いろいろな関数ばかりの勉強になります。だから、学校の勉強はおろそかにしないほうが良いですね。それから、会津鉄道では運転士になるために最短でも5年はかかります。その間にあきらめてしまう人も中にはいます。けれど、本気で運転士を目指す人は時間がかかっても運転士になっているので、あきらめずに目標に向かって努力してくださいね。

会津鉄道の車内には、月ごとにいろいろな生花が。いつでもきれいな花を楽しんでもらえるよう、こまめに入れ替えしています。

お名前
会津鉄道株式会社 運転士兼車掌 新國 彰(にっくに あきら)さん
出身地
福島県南会津郡只見町
出身校
福島県立只見高等学校
休みの日の過ごし方
建造物やダムを見ることが好きだという新國さん。休日にはいろんな所へ足を運びリフレッシュしているそう。

※この記事はaruku2015年7月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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