科学者 | プロフェッショナル夢名鑑

科学者に必要なのは「観察力」。様々な意見を見聞きし、幅広い視野と全体を見る目を養ってください。

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どんな人を科学者と呼ぶのか教えてください。

宇野 科学者とは、職種や職業というよりも、科学の研究を続けている人全般を指す用語でしょう。私は人の免疫機能の働きについて研究する免疫学が専門です。現在は人の血液などから採取した免疫細胞や液性の生理活性物質を調べ、がんなどの病気の早期発見や予防につなげる研究、リウマチの患者さんに、より効果的な抗体薬を選択する研究などをしています。
科学者が研究する分野はさまざまです。生物系・医学系だけでも、性や生命のなりたちについて研究する発生学、分子生物学、遺伝学から、病気との関連の深い免疫学や生理学等があります。ほかにも物理や化学など理学系の科学者、宇宙について研究している科学者もいます。

科学者を目指したきっかけを教えてください。

宇野 特に目指していたわけではないのですが、幼い頃から毛虫や幼虫を捕まえて、その生態を観察していました。よく似ている毛虫から異なる種類のチョウやガが孵化したり、少しずつ食べるものが違っていたりするのが、興味深かったのです。中学時代、父が買ってくれた図鑑も夢中になって読み耽りました。

大学ではどんな勉強をされましたか?

宇野 進学した大阪市大では、古典的な分類学や生態学のほか、分子生物学について学びました。私が大学生活を送った1960年代は大学闘争がさかんな時代で、なんと入学して1年も経たないうちに大学封鎖で正式な授業がなくなってしまったのです。そこで1回生のうちから興味のある教授のゼミに自主的に参加するようになりました。
その後、京大の大学院に入り、発生学の研究室で現在のiPS細胞の元となるような万能細胞の研究で修士博士の学位を取得しました。大学院に入った時、大阪市大の恩師から「学位を取れ、それを取る課程で、実験の進め方や論文の書き方など、研究者としての基礎を身に付けることが大事、併せて多分野の本を読め」とアドバイスされました。あとから、その通りだったなと実感しました。

免疫学に携わるようになったきっかけを教えてください。

宇野 博士の学位を取得したあと、当時がんの治療薬として期待されていたインターフェロンの研究をしないかと、同じ動物学教室の免疫学研究室から声をかけられました。修士課程で結婚して、子どもが2人いたので、朝9時から夕方5時までの勤務という条件付きで働くことになりました。夜中までかかるような研究は院生にいろいろサポートしてもらいましたね。その後、現在の研究所設立と共に、研究員として就職しました。

2011年からは、福島でも講演などを行なっていらっしゃいますね。

宇野 原発事故後、「NPOあいんしゅたいん」の免疫学者の立場からは「放射能の影響を恐れて野菜を食べないこと、放射線のリスクを過剰に煽り、恐怖を感じることのほうががんリスクを上げる」という記事を発信。また「農業と経済」という雑誌に書いたところ、それを読んだJAしらかわの方から「ぜひ、福島に来て話してほしい」とお電話をいただきました。その後も日本学術振興会や日本赤十字の活動で、毎年のように福島に足を運ぶようになりました。

科学者に必要な資質はありますか?

宇野 私は子どもの頃、虫や動物を飼い、「観察力」を養いました。それは科学者、特に生物系の科学者として有利に働いたと思います。もう一つ、男の子にもぜひやってほしいのが、料理です。料理は食事の時間に合わせ、おいしく食べられる状態で出さなくてはなりません。そのためには器用さと、段取り力が必要です。意外かもしれませんが、科学の実験にも段取り力は必要です。段取りの良い人は効率よく無駄なく実験を進めます。特に生物系の実験では「生きの良さ」が、データの質に影響します。5時に実験を終えて帰る中で、その能力は鍛えられました。誰かの下で研究をするときは、研究に没頭してもいいかもしれませんが、自分がチームをつくり、動かしていくのだったら、段取り力と全体を見る目が必要になると思います。

科学者を目指すお子さんや保護者にアドバイスをお願いいたします。

宇野 私は恩師から専門以外の分野の本も読みなさいとアドバイスされました。一つの物事に対しても、賛成・反対、どちらの意見の本も読んでほしいと思います。放射線の影響の本も3・11事故後、約400冊は読みました。SNSでも、自分とは異なる意見に目を通してください。その上で自分はどう思うのかを考えるのは、とても大事なことだと思います。

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Q&A

Q.科学者になるためには、どうしたらよいですか?
A.科学者は「学者」です。まず大学・大学院に進学し、自然科学を学び、修士(マスター)や博士(ドクター)などの学位を取得することが必要です。

Q.修士と博士の違いについて教えてください。
A.修士(マスター)は、大学卒業後、大学院で2年間(在籍できる限界は4年間)、決められた単位を取らなくてはなりません。修了の際、提出した「修士論文」が教授会に認められれば、学位を取得できます。
博士(ドクター)は、修士課程修了後の3年間(在籍できる限界は6年間)に取得します。ここでは研究と論文の作成が中心になります。学校から求められた論文を提出し、教授会の審査に合格すれば、博士(ドクター)の学位を取得できます。

Q.どんなところに就職できますか?
A.大学や大学院、その系列の研究所のほか、民間企業の研究機関に就職する人もいます。

お名前
(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター 基礎研究部 インターフェロン・生体防御研究室 宇野 賀津子(うの かずこ)さん
出身地
大阪府堺市
最終学歴
京都大学理学研究科大学院動物学専攻
休日の過ごし方
マンウォッチング、買い物へ行き、孫と一緒につくりおき料理をつくること。

※この記事はaruku2018年6月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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