和菓子職人|プロフェッショナル夢名鑑 

素材を活かした素朴な味と、繊細な見た目で人の目と舌を楽しませる。日本の伝統を守り、食べた人を笑顔にする和菓子職人にお話を伺ってきました。

お客さんの喜ぶ顔が見られることが、私の幸せであり、お菓子を作り続ける理由です。

「昨年の水害や今のコロナの状況も大変ですが、そんな時こそ甘いお菓子で一息つく時間が必要とされているんだと思います」と窪田さん。

和菓子職人になったきっかけはなんですか?
窪田 妻と結婚したことがきっかけです。それまではお菓子どころか料理すらしたこともなくサラリーマンをしていました。きねやの長女でもある妻は和菓子を専門に学んでいたのですがお店の後継者の問題がありました。今年で創業75年になり、私も小さい時から慣れ親しんだ味だったので、残したいなという想いで24歳の時にこの世界に入りました。昔の会社員時代とは生活リズムもすっかり変わり、朝も早いので友人達からもよく「思いきった決断をしたね」と言われましたよ(笑)。

まったくの未経験からスタートされたのですね。 
窪田 まずは義父から饅頭などの作り方を教わり、その後、郡山市の老舗和菓子店で3年程修業させて頂きました。昔ながらの職人気質な人が多い世界ですから、罵声や怒号など厳しい言葉を浴びることもありました。ただ、私が修行していた頃は和菓子の世界も職人から会社員へと移り変わる時期で、技は見て盗むというより先輩達から教わることも多く、その点は良かったなと思います。いくら真似ても出来ない部分というのはやはりあるので、そこは学んだことをいろいろ取り入れながら試行錯誤して作っています。

和菓子作りで大変なところ、面白いところはどんなところですか?
窪田 「塩梅(あんばい)」ですね。その日の気温や湿度によって出来上がりが全く違ってくるんです。火入れのタイミング一つで使い物にならないこともあります。繊細でまるで生き物の様です。特に練り切りは餡の混ぜ方によって色の出方も違いますし、一つ一つ表情が違うのも面白いですね。閉店してから集中して作るのですが、4~5時間あっという間に経っていることもあります。私は器用な方ではないですが、細かい作業は好きですし、作りたいと思ったものが形になるのは楽しいです。

窪田さんにとって和菓子の魅力とはなんですか?
窪田 和菓子は日本の美しい季節を表現できて、味わうことで四季の移ろいを感じるもの。今の時期だと菊や秋桜など、花の形を模したものを作っていますが、自分の中での想像を膨らませたイメージを、和菓子を通して形にできる表現の自由さもあります。福島県の中心に位置する本宮市をイメージした「福へそ」など、地域の歴史、自然、食材にちなんで象れるのも和菓子の魅力です。ただ、いくら良い物ができたとしてもお菓子の価値は食べた人が決めると思っています。その人が美味しいと思ってくれるのが一番ですから。

お菓子を作る時どんなことを心掛けていますか? 
窪田 親の立場で考えたときに、自信を持って出せるのがお菓子だと思うんです。だから、衛生面には気をつけ、子どもが安心して食べられる物を作るように心掛けています。また、時代に合わせて和と洋を融合させたお菓子も作っていますが、基本的な餡の味は変えないようにしています。実を言うと昨年製餡の機械が変わったので、製造工程を変えた部分もあるんです。昔と同じようにはいきませんから。しかし、きねやの味を楽しみにしている方が多いですし、私もそのうちの一人なのでお店の味はこれからも守り続けていきたいです。

一年前の台風被害ではお店も甚大な被害を受けましたよね。
窪田 阿武隈川が氾濫した時はもうダメだと思いました。こりゃ死ぬぞと。家族みんな無事でしたがお店は浸水し、機械なども流されてしまった。これからどうしたらいいのか呆然としていましたが、毎年クリスマスケーキの注文を受けている企業さんからどうしてもと頼まれ、地元の仲間たちの力を借りながらなんとか営業を再開させました。お客さんから「ありがとう」と言われた時は、こんなにもお菓子を待ち望んでくれていたのかと感慨深く、本当に嬉しかったです。

今後どんなことに挑戦していきたいですか?
窪田 店内に新しくカウンターを設けて、そこで出来立てのお菓子を食べたり、和菓子に合わせて抹茶を出したり、五感で楽しんで貰えるようなお店づくり、お菓子づくりをしていきたいです。若い人に少しでも和菓子が広まってくれたらいいですし、大変な時にいつも助けてもらった地元の人たちへの恩返しができればいいなと思っています。

将来和菓子職人を目指すお子さんにメッセージをお願いします。
窪田 和菓子作りはとても根気がいる仕事です。どんなに良い出来のお菓子を作れても上には上がいるなと感じますし、細かい作業が続きます。ずっと立ちっぱなしの仕事ですから体力的にもきつく感じることもあります。しかし、こんなお菓子が作りたい、お菓子が好きでやってみたいという想いがあれば、辛いことも楽しくできるはずです。好きなことをやるのが人生を楽しくするコツだと思いますよ。

道路に面したところにオーブンとカウンターを設置。お客さんの声を聞く場にもなっています。


一つ一つ手作りされるお菓子たち。季節の上生菓子は3種類ほど並ぶそう。

お名前
窪田(くぼた)さん
休日の過ごし方
ツーリング、DVD鑑賞
好きな言葉
一歩前へ

※この記事はaruku2020年10月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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