商社パーソン|プロフェッショナル夢名鑑

商社で働く人を指す“商社パーソン”。商社とはどのようなことをする会社なのか話を伺いました。

世界中の様々な産業に関われるのが商社。勝負のチャンスもたくさんあって面白い仕事です!

逢瀬ワイナリーのブドウ畑で。休日は母校・安積高校の学生の探究活動サポートをするシニアサポーターを務めるなど、仕事以外でも積極的にネットワークを広げています。


商社とはどのようなことをする会社ですか?
河内 昔の商社は、流通業がメインでした。特に私が在籍する三菱商事は「総合商社」と言われ、海外にたくさんの拠点を持ち、売買を仲介します。例えば、海外から資源・原材料を輸入し国内で生産したものを輸出するなど、モノの売り買いの間に入ってサポートする仕事です。ただ、情報産業が発達して海外との距離が近くなると事業者同士で直接輸出入を行う、いわゆる「中抜き」が行われるようなります。
そこで新たに始まったのが「事業投資」。投資会社のように株を買って上がり下がりで儲けるのではなく、将来性のある事業にお金や人を投資して、事業の利益を得る形態に変わりました。例えば、事業投資で海外に大きな鉱山を所有したりもしますが、身近なところでは日本のケンタッキー・フライド・チキンやローソンなども三菱商事のグループ会社です。

河内さんはどのような仕事を担当していたのですか?
河内 社内には、大きく分けて管理部門と営業部門があります。私は入社後管理部門の中でもコンピュータ管理のほか、会計や人事のシステムを作るといった、今でいうDX(※)に携わってきました。本社だけでなく海外の拠点にも管理部門と営業部門があるので、海外に赴任することも多かったです。他に、子会社やグループ会社へ出向して会社の運営・経営に携わる業務もあります。私もシステムの仕事から経営の仕事へシフトし、今はグループの復興支援事業でもある「ふくしま逢瀬ワイナリー」の経営に携わっています。
(※)DX:デジタルトランスフォーメーション。デジタル技術を活用して、業務の効率化を図ること。

本当にさまざまな仕事があるんですね。
河内 そうですね。仮に入社時に確たる将来のビジョンが定まっていない人でも、入社してから自分の適性を踏まえたビジョンを考えられる。そういう懐が深い業界です。基本は商いですが、事業投資をする場合は財務会計や契約実務など専門的な業務もあるし、自分がコンビニビジネスに配属されれば接客・レジ業務をすることもあります。全く想像がつかないくらい、いろいろな仕事ができますよ。

河内さんが商社に興味を持ったのはなぜですか?
河内 商社を志望した理由は、端的に言うと海外に行きたかったから(笑)。私は小学生から剣道を続けていて、大学1年の夏休みに剣道のリーダー研修があり、3週間くらいドイツにホームステイをしました。期間中はドイツ国内を転々とし、初海外ということもあり鮮明に記憶に残りました。知り合いも増えたし、もう一回行ってみたいなと。そこで、就職を考えるタイミングで海外でも働ける商社を選びました。

先ほど海外赴任も多かったと伺いましたが、どの国へ行かれたのですか?
河内 私はドイツに2回と、タイです。入社4年目に運良くドイツのコンピュータ部門にトレーニーとして赴任したのが最初です。当時はデュッセルドルフにいて、オランダやベルギーの国境が近かったので休日は郡山から会津若松へ行く感覚で他の国にも出かけていました。2回目の赴任も合わせると、ヨーロッパの国はほぼ足を運びました。

1回の任期はどのくらいで、駐在中はどのような生活を送りましたか?
河内 部門ごとで特徴があり、一概には言えないのですが、だいたい4~5年で大きい異動を経験します。本社から海外・子会社・グループ会社へという感じで。海外にも自分の会社関連の人だけでコミュニティができるくらいの人がいるので、駐在地で馴染めなくてもそこまで寂しくはありません。
でも、私は仕事だけのコミュニティではあまり自分の成長にならないと思ったので、なるべく仕事とは関係ない人、業界、年齢、国籍が違う人との交流も大事にしていました。2020年まで赴任していたタイでは福島県人会で活動したり、タイの剣道文化にも関わったりして。その縁で、2018年の剣道の世界大会にはタイの代表監督として同行したこともあります。あれは良い経験をさせてもらいましたね。

一番印象に残っている事業はなんですか?
河内 どれもそれぞれ思い入れはありますが、しいて言うなら今のワイナリーの仕事です。私は東日本大震災の時はドイツにいたのですが、日本にいなかったからこそ何か福島のためにできないかという想いがずっとありました。だから、地元の郡山で「逢瀬ワイナリー」の事業が始まった時はいずれお手伝いしたいと思っていましたね。縁を感じたし、自分がやるんだという使命感も生まれました。事業はなかなか難しいですが、ぶどうが育っていくのは自分の子どもが育っていくような感覚で楽しい。何より自分が50歳を過ぎてキャリアの終盤になった今、地元で社会貢献できることがありがたいです。

ワイナリーではどのような仕事をしているのですか?
河内 ワイナリーの経営全般なのですが、私は現場が好きで、今まで経験したことのない新しいチャレンジとして、ブドウの収穫や仕込みにも携わっています。経営者と従業員は対立する場合もありますが、小さい組織でもあるし現場を知っているからこそ部下の気持ちに寄り添えます。それに、現場を知ることできちんと評価もできます。今までも様々な会社の経営に携わりましたが、自分の能力以上の組織にはならないんですよ。そして、経営側の人間性がものすごく反映するものだと思います。だから、会社を成長させようと思ったら、やっぱり自分の器も大きくしないといけない。そのために人間性を磨いていくことは重要だと思います。

子どもたちにメッセージをお願いします。
河内 将来社会貢献がしたいという若者もいますが、それは私のように50歳を過ぎてからでもできるので、ぜひ様々なことに挑戦した方が良いです。今はバーチャルでなんでも体験できてしまいますが、リアルな体験に勝るものはない。私にとってそれは“初めてのホームステイ”でした。同じように海外経験や遊びでも全く構わないけれど、時間とお金をやりくりしてリアルの経験からたくさん学び、魅力ある人間に成長してほしいですね。

3度目の海外でタイに駐在中の河内さん。タイでは三菱商事グループの自動車関連のIT会社を運営していました。

お名前
河内(かわうち)さん
出身
郡山市
最終学歴
早稲田大学政治経済学部
休日の過ごし方
連休の時には東京へ帰り、家族との時間を過ごす。

※この記事はaruku2023年11月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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