科学者| プロフェッショナル夢名鑑 

独力で風船を使い、宇宙撮影を成功させた科学者の岩谷さん。なぜ、風船で宇宙を撮影しようと思ったのか。撮影成功後、今はどのような開発に力を入れているのかなどお話を伺いました。

「科学の力で不可能を可能にし、新しい世界を開く」ことが、私の一番好きなところです。

失敗の経験は建て直し方を学べて、上手くいったら自信につながる。人生どうなってでも何とでもなるんです、と話す岩谷さん。

岩谷さんは子どもの頃から科学者を目指していたのですか?

岩谷 子どもの頃見た映画、「バックトゥザフューチャー」に出てきた科学者が、最高にクールで、あんな風に何でも科学で可能にする大人になりたい、知らない世界を科学で切り開きたいと思っていました。ただ、高校で進路を調べるうちに私の目指す科学者にはなれないことがわかったんです。好きなことを自由に研究して生活できる職業はないんですよね。それで自分のやりたいことがわからなくなり、今やっている勉強も何のためにやるんだろうと思うようになりました。成績も落ち、学校で一番勉強ができない生徒で。高校3年になってもそのままで、結局浪人したんです。すると今度は同級生たちがキラキラしたキャンパスライフを送っている中で私は何したいかもわからない、なんでこんなにみじめなんだろうと思うようになりました。

その生活が変わるきっかけは何だったのですか?

岩谷 思い立ってジャンルを問わず本を読んだんです。政治経済、エッセイ、小説、科学など一通り全部。それでもやりたいことはみつかりませんでしたが。やりたいことは何だったのかだったのかと考えていた時に偶然「鳥人間コンテスト」を知りました。自分自身の知識でものを作って、それを成し遂げるという意味でちょうど自分のやりたいことと重なったんです。昔こういうのが好きだったので、もしかしたら違うかもしれないけれど、今の生活から変われるかもしれないなと思い、工学部へ進学したんです。入学後、鳥人間サークルにいざ行ってみましたがなにか違うと思い結局入りませんでしたが。

大学進学後はどのようなことをしていたのですか?

岩谷 やりたいことをつきつめようと、いろんなことをやりました。技術者向けアイディアコンテストに申し込んだときは最終的に賞金ももらい、これで発明家になれると思いました。でも、それで終わりで、その先につながるものは何もない。大学の授業でもいろんな発明品を作り、とても良い成績をもらったんですが、そこで終わり。形にならないから自分が目標とするところにいけませんでした。そうやっているうちに、いよいよ卒業が目の前に迫ってきたので、計画的に単位を落として5年生になったんです。そんな時に偶然見つけたのが「風船で宇宙が見れるかもしれない」という海外の事例。当時はあまり良い写真が撮れていなくて、宇宙っぽいものが一枚写った記事でした。

宇宙にはもともと興味があったのですか?

岩谷 はい。子どものころから宇宙がとりわけ好きで、宇宙と、ものづくりと、何かしたいという思いはありました。工学部の中にロケットを作る宇宙工学の研究をしている研究室があったので、そこでロケットについても学んだんです。宇宙=ロケットだと思うじゃないですか。でも、勉強するうちにロケットが早々に出来るものじゃないことを痛感しました。ロケットはただの筒のように見えて、1点で30万個くらいのパーツが組み合わさっているんですよ。それが一個でも欠けると落ちます。自分で数十万個のパーツは作れないですし、何千億という資金の問題もあります。これは無理だと考え、どうしようと調べているうちに、風船ならできるかもと思ったんですよ。

それで、風船で宇宙撮影ということを始めたのですね。

岩谷 はい。私は大学2年の時に自分が作ったプログラムを企業へレンタルする会社を起こしていて、その利益を開発資金にしました。在学中の2011年から開発をはじめ、卒業した2012年に初めて成功したんですが、それまでは延々と失敗してはフィードバックの繰り返しでした。飛ばすだけならそこまで難しくないのですが、それをどこまで上げるのか、中のカメラは動くのかというのが難しい問題でした。上空はマイナス90℃にもなり、寒さでバッテリーの化学反応が止まるんです。それを動かすのが結構難しく、回収するのはさらに難しかったんです。バルーンを打ち上げたのが実験だけでも1,000回以上。まともに飛ばせるようになるまで30回以上かかり、今日までだと110回を超えています。他の研究機関でもうちより多いところはなく、技術的にも上はないです。

宇宙撮影を可能にした今は、どのようなことをしているのですか?

岩谷 宇宙開発において全体の4割を占めるのがリモートセンシング(宇宙から地球を観測すること)という分野なんですが、ここに技術を応用しています。労力無しで飛び、人工衛星より近い位置から遥かに精度が高い写真を撮れるため、今回の台風のような広範囲に渡る災害などの状況を把握するにも役立てられます。さらには、写真から災害計画も簡単に立てられるんですよ。ちょうど今、福島県から補助金を受け開発している段階です。他にも、宇宙実験や宇宙ステーションで使う機材の実験などを請け負っています。

今後挑戦したいことがあれば教えてください。

岩谷 巨大な気球で人間を宇宙に連れて行く風船宇宙旅行プロジェクトです。今、ロケットで宇宙旅行しようと思うと100億円かかるそうですが、バルーンなら100万円にできます。さらにロケットを使った場合の死亡率が3%なんですが、この数字って最も死亡率が高いスポーツのF1でも1%なので、より危険なんですよね。この死亡率もバルーンなら10万の1にできる。安全で宇宙旅行に最適なんです。今後これを実現するために計画を練っているところです。ただ、私自身は宇宙に行きたいという気持ちはあまりなくて、安全なものを作ることと、科学の力で出来ないことを可能にするということが一番好きでやっているんです。そもそも、宇宙を見ることが目的だったら一回撮影した時点で終わっていました。その先のいろんなことを可能にしていくのが楽しいので、ずっと続けていられるんだと思います。

風船を飛ばす様子。風船は人と同じくらいの大きさなのだとか。

風船で撮影した宇宙の写真。

お名前
岩谷 圭介(いわや けいすけ)さん
出身地
福島県郡山市
最終学歴
北海道大学 工学部機械科
座右の銘
やってみるからはじめよう
趣味
研究や開発。本を読むこと、書くこと。

※この記事はaruku2020年1月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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