花火師| プロフェッショナル夢名鑑 

夜空に大輪の花を咲かせる花火。1年をかけて一瞬の美を作り上げる職人の世界で、まだまだ珍しい女性花火師の佐藤さんにお話しを伺いました。

やりたいことに出会えるって奇跡かもしれない。花火に巡り合わせてくれた皆に恩返ししていきたいです。

須賀川市で140年以上続く花火製造会社「糸井火工」で活躍する佐藤さん。

子どもの頃から花火造りには興味があったのですか?

佐藤 小さい時に祖父や父が本業の傍ら忙しい時期は花火造りの手伝いをしていたので、花火には馴染みがありました。でも子どもの頃はそこまで深い思い入れはありませんでしたね。18歳の時に父の勧めで『玉貼り』のアルバイトを始めたことがきっかけで、花火造りの世界に入りました。『玉貼り』とは火薬を入れて球状にした玉にクラフト紙を貼っていく作業で、当時出産を控えていた私でも、椅子に座って身体に負担をかけずに行うことが出来ました。

花火造りの面白いところはどんなところですか?

佐藤 職人さんが火薬を配合し「星」と言われる花火の素を作り、それを割薬とともに半球の玉皮に詰めていくのですが、同じように作った花火でも、打ち上げた時に見せる表情が違うところです。試験で打ち上げた時に綺麗に見えても、本番では綺麗に見えなかったり、その反対もあったり。火薬が時間とともに変化するので、まるで生き物みたいなんですよ。それから演出の構成など音楽に合わせてイメージ通りにできるとやはり嬉しいですね。

男性の多い職人の世界で、花火は危険も伴う仕事ですが大変ではないですか?

佐藤 男性社会と思われがちですが、配線や細かい作業などは案外女性の方が向いていると感じます。打ち上げの準備は特に気を使いますが、コンピューター制御で離れた所から安全に行えますし、大変に感じたことはないです。強いて言えば暑さが厳しいことくらい(笑)。職人さんたちも優しいですし、女性が少ないことが不思議なくらい、充分に活躍できる職業だと思います。

印象に残っている花火大会はありますか?

佐藤 毎年茨城県で行われる土浦全国花火競技大会です。普通の花火大会とは違い、全国の花火師たちが一堂に会し、優勝をかけて技術を競い合うのですが、そこで見た花火は圧巻でした!それまで自社の花火しか見たことがなかったので、すごい衝撃でした。上には上がいるなと感じましたし、もっと糸井火工ならではの色を出したいとも思いました。

そこから花火師として佐藤さんにも火がついたのですね。

佐藤 そうですね、今まで夢中になれるものがなかったのですが、やっと夢中になれるものに出会えたと思いました。初めてプログラムの構成を担当した第40回須賀川市釈迦堂川花火大会では、プレッシャーもありましたが自社の玉を贅沢に使った豪華な花火大会になったと思います。一つひとつ手作業で作る花火は数に限りがあるので、競技大会以外では輸入した玉を組み合わせることがあるのですが、ほぼ全てを自社の玉で構成したスターマイン(速射連発花火)という演目ができたのは嬉しかったですね。他にも宮城県の女性花火師と共演したり、2尺玉を取り入れたり例年にはないプログラムになりました。

佐藤さんはお子さんがいらっしゃいますが、育児と仕事の両立はいかがですか?

佐藤 5歳の娘は私の仕事も理解しているようで、職場に連れてくることもありますし、周りも本当の家族のように接してくれるので助かっています。花火きれいだったよと言ってもらえるとやはり嬉しいですね。娘には私と同じように、何か夢中になれるようなものを見つけてもらいたいなと思っています。やりたいことや目標があるとそれだけで楽しいですし、もっと頑張れる気がするので。

これからどんな花火を作っていきたいですか?

佐藤 私は競技大会で賞を取るというより、地域の方や子どもたちなど、身近な人に喜んでもらえるような花火を作っていきたいです。花火造りの世界に入るきっかけや、子育てのサポートなど、周りの環境に恵まれているなと思いますし、これからはその恩を返していければと思っています。いずれは今輸入している物も自分で作っていきたいです。また、今年は多くの花火大会が中止を余儀なくされるなかで、花火師たちによる“花火で元気を届ける”プロジェクトが始まります。3密を防ぐため場所や日時は非公開ですが、全国各地で一斉に花火を打ち上げる予定です。もしかすると近くで見られる方もいるかもしれません。花火を観て少しでも明るい気持ちになってもらえればと思います。

10号玉から尺玉と言われ大きさは約30㎝、重さは約8.5㎏。糸井火工では他にも手持ち花火なども製造しています。

お名前
有限会社 糸井火工 花火師 佐藤梨緒奈さん(さとう りおな)さん
出身地
福島県郡山市
お休みの日の過ごし方 
温泉 ライブDVD鑑賞
座右の銘 
一期一会

※この記事はaruku2020年6月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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