樹木医|プロフェッショナル夢名鑑

弱った木の活力を取り戻す木のお医者さん。樹木医に話を伺いました。

樹木医は生態系の保全に貢献できる仕事です

須賀川市の十念寺で木の診断をする安斎さん。木槌で叩いた音で木の内部の状況を判断します。


樹木医とはどんなお仕事なのでしょうか?
安齋 木はありのままの姿でいられれば、健康はある程度維持できます。しかし、長く生きている老木などは病気や虫の寄生、土壌や環境の変化で弱ってしまうことがあります。こうした樹木を調査・診断して、土を改良したり、栄養を与えたりすることで、もとから持つ活力を引き出すお手伝いをすることが私たちの基本的な仕事です。私たちは木が酸素を作っているからこそ呼吸ができて、生態系のバランスが保たれているおかげで生きていられます。樹木医は、そうした生態系の保全に貢献する仕事でもあります。

どのような木を診断するのですか?
安齋 私は造園業者として働いているため、街路樹や民家、お寺など、人間の生活圏内にある木の診断を依頼されることがほとんどです。街路樹は日差しを遮る他にも、車道と歩道の垣根になることで交通事故の被害や排気ガス、騒音を抑えてくれる大切な資源。一方で、弱って倒木すれば人命に危険を及ぼす可能性もあるため、安全であるか確認する作業が必要です。お寺や神社、家にある古い木は、人々の信仰対象にもなりますので、心のよりどころを守り、次の世代へ継承することにもつながります。林業界などで活躍する樹木医の中には、里山の循環を促すために、伐採して更新させる形で森を保護する役割を担う人もいます。

木の診察はどのように行うのでしょうか?
安齋 木は話すことができませんので、木槌で幹を叩いたり、幹の腐朽部に鋼棒を差し込んだりして観察します。元気な木は、木槌でたたくと高めの音が返ってきますが、低い音の場合は幹の内部に異常がある可能性が高いと判断できます。また、精密診断といって、機器を使用して内部の腐朽率を測ることもあります。

診断で悩むのはどんな時ですか?
安齋 木を治療する立場として、治療を諦めて伐採の決断をする時は心苦しく、ジレンマを感じます。幼稚園や学校、街路樹など、倒れてしまうと人の命に関わる可能性が高い場所にある木は、治療できそうであっても万一を考えて伐採することも多いです。

取材は須賀川市の十念寺で行いました。今日はどんな木を治療するのでしょうか?
安齋 庭木でよく見かける「キャラボク」の樹勢回復作業に来ました。樹齢500年を超える老木で、枯れ枝があり葉の色も良くありません。植物は葉で光合成をして栄養を作りますが、健康な葉に復活させるためには根がしっかり栄養を吸収できるようにしなければなりません。今回は、元気のない枝に直結しているであろう根の周りの土を、新しい根が出てきやすい土に入れ替えました。ただし、すぐに効果が出るわけではなく治療は長期間、様子を見ながら続けることもあります。元気になった木を見れると、やりがいを感じますね。

樹木医になろうと思ったきっかけを教えてください。
安齋 巨木めぐりが好きで触ったり、眺めたりしているとパワーがもらえるような気がしていたんです。もっと木のことを知りたいと思い始めたタイミングで、樹木医という仕事があることを知りました。もともと公園の設計の仕事をしていたのですが、出産を機に退職し、樹木医を目指すことに。樹木医になるには実務経験が必要なため、30歳で造園業に転職し、植物の保護・管理を行う仕事を7年間経験した後に資格試験を受けました。

樹木医の資格を取るにはどんな試験がありますか?
安齋 樹木医は合格率20%の難関資格です。まずは「樹木医研修」に参加するための試験を突破しなければなりません。樹木の診断には、木の生態や生理に関する知識はもちろん、土や病害虫、気象など、幅広い知識が求められます。論述試験もあるため、論文を読んで病気や生態系など最新の知識を蓄えておくことも必要です。樹木医研修は、より専門的な知識を身につけるハードな内容。前日学んだ内容を、翌朝に試験…という日々を繰り返しました。私は3人の子育てをしながらの受験で本当に大変でしたが、家族のサポートのおかげで試験は一発で合格することができました。

お仕事をされている中で、国内初確認の外来種を発見されたそうですね。
安齋 2019年に郡山市の街路樹を診断している時に、「イヌエンジュ」という木に穴が開いているのを見つけたことをきっかけに、日本で未確認だった外来種のカミキリムシを見つけました。和名がなかったので、研究機関などのアドバイスをもとに「サビイロクワカミキリ」という名前をつけました。在来種のカミキリムシの多くは、朽ちた木に入り込み「森の分解者」として活躍しますが、サビイロクワカミキリは生きている木の内部を食い荒らします。放っておくと倒木の危険性もありますし、在来種の生息地を奪い、生態系のバランスを崩すことにもつながります。被害を受けた木は拡大防止のために焼却処分しなければなりませんので、発見できたことで早期の対策につなげることができたと思っています。発見者の責任を果たすためにも、サビイロクワカミキリの研究と駆除を続けていきたいと考えています。

子どもたちにメッセージをお願いします。
安齋 木は人間が生きていくうえで欠かせないパートナー。木に触れて仕事をしていると、身も心も健全になるような気がします。自然が好き、あるいは興味があるという人はぜひ樹木医を将来の選択肢に入れてみて下さい。

これが診断したキャラボクの根。根や葉が何年もかけて成長していくのを待ちます。


樹木医の必需品。左は幹に差し込んで診断する鋼棒、右は根を掘り出すための棒です。


お名前
安齋(あんざい)さん
パワーの源
子どもたちからの応援
休日の過ごし方
動植物の観察

※この記事はaruku2023年4月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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