学芸員| プロフェッショナル夢名鑑 

資料の収集、保管、展示など、過去から未来へ歴史を伝える。地域の歴史総合博物館で働く学芸員の方にお話をお伺いしました。

考古学は未来学。歴史を知ることで生きる力を感じてほしいです。

この夏には、日本全国の遺跡から採集された土器や石器、約3,000点を展示する企画展を行ったそう。

学芸員を目指したきっかけは何ですか?

管野 子どもの頃から好奇心が強く、化石や土器の破片など不思議な物を見るのが好きで、両親によく博物館に連れて行ってもらいました。小学3年生の時に行った会津若松市の福島県立博物館では、ブラックライトを当てると光る石を学芸員の方に見せてもらい、すごく感動しました。高校生になると日本史の授業が特に好きで、なかでも文字のない時代に興味があり、大学では考古学を専攻しました。研究者ではなく、学芸員になったのは、いろいろなことに興味があり、私が子どもの頃にした体験のように、説明や実演を通して人の心を動かす機会を作ることができる仕事って良いなと思ったからです。

学芸員になるためにはどういったことを学んだのですか?

管野 大学で考古学を専攻し、発掘調査や出土品の保管方法、展示方法などを学びました。その中で先生から「書いてあるものは信じるな」と言われたことは衝撃でしたね。文字で表されているものは、誰かの目や心を通して表現された物だから鵜呑みにしてはいけないと教えられ、府に落ちたというか、納得してますます興味深いなと思いました。学芸員資格は大学で文科省の定めた博物館に関する科目の単位を修得して卒業すると取得できるのですが、募集が圧倒的に少ない職業でもあります。私は実家が近いこともあり、卒業のタイミングで募集のあった須賀川市の採用試験を受けて今に至ります。

須賀川市立博物館では地域の歴史に関する資料を展示していますよね。

管野 須賀川市の歴史がわかるような出土品や美術品をはじめ、その時代ごとに住んでいた人が書いた手紙や日記など、博物館には約8万点の収蔵品がありますが、その中からテーマを決めて年に3~4回企画展も開催しています。寄贈された物やお借りしている物もあるので、物理的に丁寧に扱うことはもちろん、物の後ろには持ち主が大切に保管していた想いがあることを意識して扱うようにしています。私は考古学が専門ですが、博物館では美術品なども展示しているので、技法や作家についても勉強しますし、いろんな知識が増えるのは面白いです。

展示する際に気を付けていることはありますか?

管野 正しい情報を伝えられるように、展示する高さやライトを当てる角度も気を使いますね。解説や図録を作る際は、わかりやすいように必要な情報を絞り込んで、少ない文字数で伝わるようにしています。また、触れられるものは手に取ってもらうのが一番だと思っています。私も初めて埴輪(はにわ)などの出土品に触れた時は、1500年前の人が作ったものが今でも実在するんだ!とすごく感激しました。今は難しいですが、手袋をはめるなど工夫して、お客様も体感できる展示を行っていきたいです。

管野さんの中で印象に残っている展示物は何かありますか?

管野  江戸時代後期に活躍した画家、亜欧堂(あおうどう)田(でん)善(ぜん)の銅版画です。学生の時にたまたまこの須賀川市立博物館で目にして、こんなに緻密で繊細な絵を描くってどういうこと?と衝撃を受けました。しかも、その人が身近な須賀川市の生まれであることにもびっくりで。その絵を見ているうちに、いつか私達と同じ時を生きている人の中から、亜欧堂田善のような人が出るのかなとか、自分たちがやったことが数百年後に残るのかなと考えると感慨深いものを感じました。

そう考えると、展示物も色々な見方が出来て面白いですね。

管野 「考古学は未来学」だと言われます。土器がなかったらコップもないですし、便利なものや技法は過去の経験があってこそ誕生するものです。それらを作ってきた昔の人たちをすごいと思いますし、便利なものがなくても生活ができていたことを考えると、昔の人から今の自分たちの可能性を教えてもらっているような気がして、働く中で言葉の意味を実感するようになりました。コロナ禍の今、あらゆることを制限されているから余計に感じるのかもしれませんが、豊かに生きていくためにも過去を知ることは大事なことだと思います。

豊かに生きるとはどういうことですか?

管野 例えば、埴輪など今では必要のないものでも、当時の人たちにとっては重要な空間を守ったり、葬られている豪族の身分や儀式を象徴させたりと、それを作ることには大事な意味がありました。その時代の社会や文化、信仰など、現代とは違う考え方や文化の違いを知ることで、自分以外のものさしで物事を見て、受け止める。そんな風に多様性を認めることで、今を生きる私たちも互いに理解し楽しく生きていくことが出来ると思うんです。そのきっかけとして博物館があって、直接感じ取ってもらうための仲介人としての学芸員がいる。過去から未来へ、物だけでなく、当時の人の想いや考えを伝えていくのも学芸員の大事な役割です。

博物館からいろいろなことが学べるのですね。

管野 繊細な美術品を見て感動したり、昔の人形を見て怖いと感じたり、例え興味のない物でも何かしらを感じてもらえる。博物館は心の体操ができる場所だと思います。身近に博物館があれば、ぜひ行ってみてください。その中で好きなことや興味のあることが見つかるかもしれませんよ。

管野さんが衝撃を受けた亜欧堂田善の作品。手作業とは思えないような繊細な描写に驚き!

管野さんが作成した昨年開催の企画展のポスター。ゲームみたいで面白い!

お名前
須賀川市立博物館 学芸員 管野和恵(かんのかずえ)さん
出身地
福島県郡山市
学歴
茨城大学 人文学部 考古学専攻
休日の過ごし方
読書(料理に関する本や、昔の人が書いた日記などをよく読むそう)
座右の銘
考古学は未来学

※この記事はaruku2020年12月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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