住職| プロフェッショナル夢名鑑 

葬儀や法事をはじめ、地域の神仏を守り伝えていく。人々と仏様とのご縁を繋ぐ住職にお話を伺いました。

お寺は人生の修行道場。仏教はより良く生きるためのヒントを教えてくれます。

猪苗代町で約500年続く壽徳寺のご本尊は健康にご利益のある薬師如来。「こんな時だからこそ、よりどころとなる存在でありたいです」と話す松村さん。

住職を目指したきっかけを教えてください。

松村 父が病気で亡くなったことと、10年前に起きた東日本大震災です。実家がこの壽徳寺で私は寺の1人娘でしたが、両親からも継いでほしいと言われたことはなく、私自身も全くその気はありませんでした。音楽が好きで音楽大学で声楽を学び、東京にあるコンサートの企画・運営を行う会社で10年位働いていた時に父が病気で亡くなりました。その2年後に東日本大震災が起き、父や、地元福島への想いが強くなっていたこと、40歳を前に人生の約半分を自分の好きなことに費やしてきたのだから、残りの人生を恩返しに使うのも良いなと思い、人の役に立つために僧侶になろうと決めました。

住職になるにはどんなことを学ばれたのですか?

松村 父も通っていた大正大学に編入し仏教について学ぶと同時に、道場で修行をしました。大学では弘法大師空海の書いた書物を読んだり、節のあるお経をグループになって読んだりしながら、仏教について知識を深めていきました。修行は携帯電話も預け、テレビも新聞もない、一切の情報から遮断された山の中で、あらゆる煩悩を断ち切り自分を見つめ直すものです。そして、仏様とご縁を頂く儀式を行い、大学を卒業しこの壽徳寺の住職として福島に戻ってきました。

修行は大変ではありませんでしたか? 

松村 私が修行を始めたのは37歳ですが、周りは18歳~20歳位の男子学生がほとんどでした。お寺の周りにはお堂がたくさんあり、早朝にお参りをするのですが、山の中なので移動するだけでも体力を消耗します。修行中は集団生活になるので気を使いますし、精神的にも大変でしたが、それ以上に体力的に周りについていく方が大変でしたね。しかし、会社員時代とは違い、俗世間から離れ、周りのことを気にせず、自分のことだけに集中できる時間は幸せだなと感じました。また、歳を重ねても学びの場を持てたことや、知らなかったことを教わり、自分の世界が広がったことはありがたいことだなと思いました。

住職としてお父様の後を継いでみていかがですか?

松村 地元の猪苗代町に帰ってきて、お葬式や法要など住職としてのお勤めはもちろん、何かあれば相談や拝んでほしいと頼まれることも多く、地域柄信仰心が強いんだなと改めて感じました。それから、父が若い時は子どもたちにそろばんを教えたり、村の人たちの交流の場としてお寺を開放したりしていたと聞き、今は法要以外でお寺を訪れる機会は少ないかもしれませんが、私もお寺をもっと開かれた場所として身近に感じられるようにしたいです。

壽徳寺では、お寺ヨガなどのイベントもされているんですよね。

松村 仏教もヨガも瞑想によって心と体を整えるという点では同じです。ヨガを入り口にお寺を知ってもらう、その逆も良いなと思っていました。そんな想いを共にできる方がいればと考えていた時に、マインドフルネスの講習会を通じて白河でヨガをしている先生に出会い、お願いしたんです。実際にお寺ヨガをされた方からは、スタジオより集中できるリラックスできるといった声も聞き、少しでもお寺や仏教に親しみを持っていただけたかなと思います。

2020年は新型コロナウイルスによって世界中が大変な状況になりましたよね。 

松村 誰もが経験したことのない状況に陥り、不安や悲しみなどの気持ちを開放する場所がなかったように思います。仏教には「抜(ばつ)苦(く)与(よ)楽(らく)」という教えがあります。苦しみを取り除き、安らぎを与える。物理的には変わらないかもしれませんが、安心して感情や気持ちを吐き出し、仏様と向き合う場所として、また気持ちを新たに頑張ろうと思える、そんなきっかけとしてお寺という場所があるということを多くの人に知ってもらえたら嬉しいです。

仏教の教えの中で松村さんが特に大事にしていることはありますか?

松村 寺の宗派である真言宗の教えの根本は、「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」です。仏様=死ではなく、誰もが穏やかに安らかな心を持っていて、この世の中でもこの身このままでも仏様のようになれるという意味です。しかし、多くの人はその心を持っていることに気づいていません。気づくためにはきっかけとなる人との出会いや体験が必要で、その心を磨いていく必要があります。心を磨くには、今流行している3密とは違った三密も大事です。それは「身(しん)密(みつ)・口(く)密(みつ)・意(い)密(みつ)」‐身体や行動を整え、言葉や発言を正しくすれば心や考えも整うという修行です。今、大変な状況だからこそ、相手を思いやり自分を見直す機会なのではないかと思います。

最後に子どもたちへメッセージをお願いします。

松村 生きていくことは、楽しいことより辛いことの方が多いかもしれません。でもその苦しみが成長するための試練だと思えたら、自分自身が変われると思います。特に受験生は試験や卒業式、入学式もどうなるか分からず、不安なことでしょう。でも見方を変えれば、一生に一度しかできない経験かもしれません。何事もできない条件を探すより、まずは挑戦してみてください。成功の反対は失敗ではなく、やらないことです。決して無駄な事はありません。

普段身に着けている袈裟(けさ)(折(おり)五條(ごじょう))は会津木綿を使ったオーダーメイド。

コロナ禍で始めた会津木綿のお守り袋も、松村さんが一つ一つ心を込めて手作りしています。

お名前
壽徳寺住職 松村妙仁(まつむらみょうにん)さん
出身地
福島県猪苗代町
最終学歴
大正大学仏教学部仏教学科
休日の過ごし方
時間があるときはドライブをしたり、熱海など日帰り温泉に行くそう
座右の銘
初心忘るべからず

※この記事はaruku2021年1月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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