農業系研究者|プロフェッショナル夢名鑑 

農作物の品種開発や栽培管理・技術を研究し、世に広めていく。福島県の農業を陰で支える農業系研究者にお話を伺いました。

新しい物やより良い物を生み出せることは、とてもわくわくします。

ほ場で収穫したさまざまな品種のお米を、一粒一粒チェックする松崎さん。


農業系の研究者を志したきっかけを教えて下さい。

松崎 実家が農家なので、小さい頃から当たり前のように祖父や父の手伝いをしていました。その中で自然と農業や生物に対して興味を持っていったことや、進路を選択する時期に日本の農業や産業における技術力の高さを好意的に感じていたことがきっかけで、農業の研究分野に進もうと思いました。大学では応用生物科学を専攻し、細胞の仕組みや働きなど生物、遺伝の基礎について学べたことは、とても興味深く面白かったです。

松崎さんは現在、どんな研究をされているのですか?

松崎 お米の品種開発を研究しています。昨年度は福島県の新しいお米「福、笑い」について栽培方法をまとめていました。14年の歳月を経て発表された品種だけに、農家の方からも待ちわびていたという声も多く頂きましたね。現在は、「福、笑い」に次ぐ新しい品種を生み出すために、データを取っているところです。農作物は天候によって収量も出来も変わりますし、東日本大震災以降、県産農産物は市場価格が下がってしまったため、農家の収益に繋がりにくいという現状があります。そういった状況を打開するためにも、より生育がしやすく美味しい品種を生み出すことは、農家の労力やコストを削減したり、お米の市場価格を上げたり、農家の収益アップにつなげる大事な役割もあるんです。

新しい品種はどうやって開発していくのですか?

松崎 例えば、味が良いけど病気に弱いAというお米と、味は悪いけど病気に強いBというお米を交配し、味も良く病気に強いCというお米を作ります。毎年様々な交配を重ねて、得られた新しい100種類のお米について、生育の状況や栄養状態、品質や食味を調べて、その中から優れた候補を選びます。調査と選抜を根気強く続けることでより良い品種を生み出していきます。あえて夏に温室で高温状態を作り、稲の状態がどうなるのか、他のほ場と比べてどんな差が出るのかなども比較しますし、優秀な候補を見極めていくことで次のステップへと進められるんです。新しい品種を1つ完成させるには、短くても10年以上かかると言われているんですよ。

※ほ場…農作物を栽培する場所。

膨大な時間がかかるのですね。

松崎 収量や味など研究項目も多いですし、日照時間や気温などが毎年同じ条件で研究できるとは限りません。特に、近年は異常気象ともいわれる状況も多く、長いスパンをかけてしっかりと研究結果を分析していく必要があります。育てやすさや栽培コストだけでなく、主食であるお米は香りや食感など、美味しさもとても重要です。味覚は人によって違うので、味を分析する時は、センター内で働く多くの職員に試食してもらいます。そういった調査を繰り返すことで、皆さんが現在食べているお米の品種ができあがっていくんです。

日々の研究の中でどんなことを意識されているのでしょうか?

松崎 品種を開発する上では、目を養うことが必要だと感じています。ほ場での稲の立ち姿や生育状況、収穫後の玄米の品質や特徴など、ある程度絶対値となる基準を設けて評価していく必要があります。そのため、研究室に籠るのではなく、できるだけほ場に出て細かく自分の目で確かめるようにしています。研究はデータの蓄積が大事ですし、地道な作業の積み重ねです。一朝一夕で結果が出るものではないですし、その分自分も勉強の日々だと思っています。

研究者には忍耐力も必要ということですね。

松崎 そうかもしれませんね。なかなか結果が芳しくない時は、上司や先輩の方にアドバイスをもらいながら研究を進めます。チーム内でもそれぞれが課題を持って研究に取り組んでいますが、点と点を結び付けて新たな発見ができるというのは、研究者冥利に尽きるなと思っています。農業の研究は品種開発以外にも、ICT技術を応用した栽培管理やドローンを使った肥料散布など、作業効率をいかに上げられるかという技術的な研究もありますし、さまざまな研究が合わさり、結果的に農家の経営にプラスになると嬉しいです。また、研究の成果を発表したり、農家の方から良い反応が返ってきたりするとやりがいも感じますね。

農業総合センターでは、研究発表会も開催されているんですよね。

松崎 昨年度はオンライン開催でしたが、毎年年度末に開催しています。農業総合センターの性質上、発表会に来られる方も農家など農業に携わっている方がほとんどです。農家の方は生産者でもあり経営者でもあるので、研究結果もかなり厳しく見ているなと感じます。しかし、そういった方に認めてもらえるような、栽培のしやすい品種やコストが抑えられる技術が普及することで、農業が直面している後継者不足といった問題が少しでも解決できればいいなと思います。

将来、研究職を目指す子どもたちにメッセージをお願いします。

松崎 研究職といってもさまざまな分野があると思います。今はまだ具体的なイメージができていなくても、好きな物について勉強したり、興味があるものに対してより知識を深めたりすれば、不思議とやりたかったことがはっきりしてくると思いますよ。

食味官能試験の様子

同じ条件で炊き上げたお米を、中心のお米と比較し、見た目・香り・味・粘りの強さ・硬さを調べます。


お名前
福島県農業総合センター 作物園芸部品種開発科 研究員 松崎 拓真(まつざき たくま)さん
出身地
福島県郡山市
学歴
東京農工大学 農学部
休日の過ごし方
スポーツ観戦
座右の銘
その一秒を削り出せ

※この記事はaruku2022年2月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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