検察官|プロフェッショナル夢名鑑

罪を犯した人を適切に処罰する法の番人、検察官にお話を伺いました。

検察官は、裁判の中で最も主体的に事件を見つめられる立場

検察官のバッジはその形から「秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)」と呼ばれ、秋におりる霜と夏の厳しい日差しを意味することから,刑罰や志操の厳しさにたとえられています。


検察官とはどんなお仕事なのでしょうか?
柳川 警察に逮捕された人が本当に罪を犯したのかを調べて、罰を与えるための裁判にかける「起訴」をするかどうか決める国家公務員です。裁判では、疑いをかけられている人の有罪を主張し、どのぐらいの刑罰を受けるべきか裁判官に訴える役割もあります。罪を犯した人を適切に処罰し安全な社会をつくるために不可欠な仕事です。

どうすれば検察官になれるのでしょうか?
柳川 まずは、法律に関わる仕事をするために必要な国家資格である司法試験に合格しなければなりません。試験は誰もが受けられるわけではなく、大学卒業後に法科大学院(ロースクール)に通うか、予備試験に合格することで受験資格を得ることができます。合格後は、司法修習という教育制度を1年間受けて、最後の試験に合格すれば、検察官や弁護士、裁判官になる資格を得ることができます。司法修習はある意味就職試験のようなもので、検察官を志望する人のうち実際に採用されるのは一部です。

司法試験は最難関の資格といわれています。どのように勉強してきたのでしょうか。
柳川 本当に大変でしたね。大学2年生の終わりから法科大学院進学のための勉強を始め、大学院の2年間で司法試験合格に向けての勉強をしました。法律を仕事にするには法律を覚えることが大前提。でも、私は文字をたくさん読むことが苦手で…。そこでやってみたのが、書いてあることを自分で声に出して録音し、それを聞きながら書くこと。ものを覚える時には人それぞれ適したやり方があると思うのですが、私にはその勉強法がぴったりでした。

検察官を目指そうと思ったきっかけを教えてください。
柳川 「就職に有利かな」「自分のキャラ的には」などではなく、大学で学ぶならと法学部へ進学しました。その後、犯罪と刑罰についての法律「刑法」のゼミで勉強しているうちに、もっと法律の勉強をしたい、法律に関わる仕事がしたいと思うようになり、司法試験の合格を目指すことにしました。
検察官になろうと決めた大きなきっかけは、司法修習中に受けた犯罪被害者の心理に関する講義でした。罪を犯した人を罰するには、被害者に事件当時のことを思い出して被害を訴えてもらうプロセスが必要です。被害者にとっては辛いことですが、その中には経験を乗り越えて普通の生活に戻っていくために必要なことがあるかもしれない。これまで学んできたことを、被害者が新たな一歩を踏み出すために活かしたいと思い、裁判の中で最も主体的に事件を見つめられる立場である検察官になりたいと考えました。

検察官としてお仕事を始めた当初、印象に残っていることはどんなことですか。
柳川 最初の配属先は名古屋市の地方検察庁でした。初めて自分の名前で起訴した事件は、職場内でキャッシュカードを盗んでしまったというもの。容疑者は犯行を認めていましたが、警察からもらった事件記録だけでは裏付けが不十分だと感じました。そこで、現場に行って防犯カメラの映像やセキュリティの仕組みを捜査し、犯行時刻に更衣室にいられるのは容疑者しかいないことを証明して起訴しました。月に数十件の事件を担当するため、すべての事件をここまで捜査するわけではありませんが、自分の名前で誰かを裁判にかけることの重みがあるからこそ、実際に現場を見て確かめることを大切にしたいと実感した事件でした。

たくさんの犯罪事件に向き合う立場ですが、大変と思うことは何でしょうか?
柳川 犯罪には窃盗や傷害など様々なものがあり、被疑者も未成年からお年寄りまで様々な人がいます。中には認知症などで言葉をうまく話せない人を担当するときもありますが、どんな被疑者でも丁寧に聞き取りをしなければなりません。また、幼い子どもが犠牲になってしまう事件などは、自分自身も精神的に辛くなってしまいます。ですが忙しい時は、別の事件にと頭を切り替えられるので、自分をコントロールしながら仕事に向き合っています。

どんな時にお仕事のやりがいを感じますか?
柳川 検察官としての責任を一つひとつ全うできたと感じる時ですね。特に裁判は事前の準備が大事。犯行を裏付ける証拠を第三者から証言してもらう「証人尋問」では、目撃者や専門家に来てもらうことがあります。裁判官に分かりやすく事件時の状況や証拠を伝えてもらうためにどう質問すればいいのか、時には専門外のことも勉強しながら考える必要があり、うまくいくと報われたと感じます。

小、中学生時代はどんな子どもでしたか?
柳川 長縄飛びに入れない、エスカレーターに一人で乗れない、漢字を書けない…と、勉強も運動も人一倍苦手な子どもでした。まずは人並みになれるようにと努力したことで、頑張ることは人よりちょっと得意になれました。

どんな人が検察官に向いていると思いますか?
柳川 まずは体力がある人。司法試験に合格し検察官になるまでにはかなりの勉強量が必要ですし、任官してからも多忙な日々を過ごすことになります。また、検察官に限らず司法関係の仕事は、新しく知識を得ることや発見する努力を続けていける人に向いていると思います。もちろん、努力をしたからといって夢は必ずかなうわけではありません。実際、司法試験に合格できなかった人や検察官になりたくても司法修習で採用されず夢を諦めざるを得なかった人を何人も見てきました。でも、チャンスは努力をしなかった人には巡ってこないと思うんです。

今後の目標を教えてください。
柳川 現在任官4年目で、まだまだ経験も知識も足りないと感じます。まずはいろいろな事件を経験して、基本に忠実な検察官でい続けたいです。

必需品は「六法全書」と起訴状に署名をする万年筆。事務官からもらったカワウソのホチキスがお気に入りです。


本格的になりたい職業が決まったのは大学院卒業後だったという栁川さん。「夢ができるタイミングは人それぞれ」と話します。

お名前
栁川(やながわ)さん
座右の銘
いいことはおかげさま
わるいことは身から出たさび
休日の過ごし方
カラオケボックスでテナーサックスを吹くこと

※この記事はaruku2023年3月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

連載