たんすコンシェルジュ |プロフェッショナル夢名鑑

aruku教育インタビューwith ベスト学院 プロフェッショナル夢名鑑 File vol.74

たんすコンシェルジュ

井野元 妙子さん
おしゃれ劇場tansuconcierge1 初めて担当したお客様が最近、孫の七五三で来店したそう。「親、子、孫まで繋がれるのもこの仕事ならではのやりがいです。」と話していました。

お客様との信頼関係を築くことで
“たんすコンシェルジュ”の仕事が成り立つんです。

- 井野元さんは小さい頃から着物をよく着ていたのですか?
井野元 特に着物が好きだったというわけではないが、おじとおばがおしゃれ劇場を経営していたため、母が私のお祝い事などでよく着物を着ていたんです。記憶には無いけれど、写真を見ると私も着物を着ているものばかりで。そういう意味では人より着物に馴染んでいました。祖母も着物が好きだったので、祖母が持っている綿の着物なども着せてもらっていました。祖母が亡くなったときに遺品整理をしていたら小さい着物がいっぱい出てきたから、自分たち用に作ってくれていたのかなと思いましたね。それに、成人式などで着物を作ってもらい、周りに「素敵な着物ね」と褒められていたので着物を着ることの気持ち良さはありました。もともと大学は経済学部で、大学卒業後は専門学校の教師をしていたんです。就職活動をしているときに教師だった母の勧めもあったので。仙台の専門学校で医療事務の講師をしていました。ちょうど3年目の秋頃に祖父の病気が悪化して介護が必要となり、母も仕事を辞められなかったので私も福島に帰って介護の手伝いをしたのほうが良いのかと悩んでいたところでおじに「やったらいいじゃない、この仕事」と言われてこの世界に飛び込んだんです。

- 分野の違う仕事をすることに抵抗はなかったのですか?
井野元 この仕事は着物のコーディネートはもちろん、営業も大事な仕事なんです。お客様のところへ行って振袖とか必要な商品があるかどうか伺ったり、連絡をしながらお客様に営業をかけたり。そして前の仕事も、担任が生徒の就職斡旋とか就職先を探すために病院やクリニックを訪問したり、いろんな高校に行って生徒募集の周知をしたりといった営業の仕事がありました。だから生徒だけでなく学校の先生とも関われば、クリニックや病院の採用担当の方とも関わる仕事で、もともと私は人と関わることがすごく好きで、人と関わりながら自分と人との関係を作るということにはすごくやりがいを感じていたので、なのでそれに対して抵抗はありませんでした。それに、振袖や着物を買うって特別なときですよね。七五三や成人式などの人生の節目とか。前の仕事は就職という節目に関わっていたのでその点でも共通していて。そんな節目に関わる仕事っていい加減なことはできないじゃないですか。その人の一生に関わることですから。だから余計に自分の技術や知識を持たなければいけないという責任感も生まれるんです。その人の一生に一回だけある節目に特別関わったときに「井野元さんが選んでくれた着物だ」っていうことが何十年たっても残る、一期一会の仕事だと思っています。そして、もしもその人が私とのかかわりを大事にしてくれたら今度はそのお子さんとかお孫さんまで面倒見させてもらうことになるんです。そう思ったら、前の専門学校での仕事とすごく共通するなと感じました。だから、天職だとおもっています。

- はじめはどのような仕事をしていたのですか?
井野元 最初は全く知識もなかったので、飛び込み営業とかも行っていたりしていました。断られたり、怒られたりすることもありましたが、「あなた一生懸命だから今度行くわ」と言って本当に来てくれた方もいました。今でも営業の仕事は大変だと思いますが、「私が着物を選ぶことで絶対に後悔させませんよ、素敵な振袖を一緒に探して喜んでもらいたいんですよ」ということを伝えていくことでお客様の心も動くのかなって感じています。そしてその人の人生が何十年もある中でいかに日本文化の着物に関わってもらえるかというのは本当に自分の接客1つだとも思いますし、逆に長いお客様を作るための最初のきっかけってすごく大事なんです。初めてのときに上手にコミュニケーションをとり、「このお店だったら間違いない」と思ってもらうようにならなくちゃいけないんです。でも、私が選んだ着物を着て撮った写真が一生記念に残るような、人生に関わる仕事ならこのくらい大変でも当たり前かもしれませんね。簡単にできた、とかすぐにお客様に満足してもらったということはありえないので、一生懸命その人に向かって心を尽くして、時間をかけてやっと信用を得られます。だからその分喜びも大きい。お客様がお店に来て「井野元さんに選んでもらえてよかった」と言ってもらえるまでの努力が大きければ大きいほど嬉しいので、それは報われたときにはありがたいです。知識は磨かなきゃいけないので、新潟や京都などものづくりの産地を見学したり、書籍を読み漁ったりしましたね。

- 実際にものづくりの産地に行くこともあるんですね。
井野元 はい。休みや仕事の後など仕事の時間以外の部分で時間を費やしました。お客様に間違った知識を伝えてはいけないし、呉服屋さんで良いって言われたのに実際は違ったとなれば信用を失うだけでなく、もう二度とうちの店には来てもらえなくなってしまいますから。それを防ぐためにも、自分の知識や技術を磨かなければいけないし、その時その時のお客様の要望に合わせてきっちり的確にご案内しなきゃいけないのでいい加減なお仕事はできません。今は、毎月仕入れで大きく商品が集まる京都や東京の日本橋に行って商品を見たり、うちの商品はどうやってできているのか帯屋さんや着物の染物屋に行ったりしています。着物の柄や紋の話、着物の検定の産地や絹の話、織り・染めの産地と特徴を読んで覚えるんです。お店の商品を見ながら勉強しました。その中で、たんすコンシェルジュの資格を知りました。

- たんすコンシェルジュになろうと思ったきっかけはなんですか?
井野元 最近、家に着物があるから新しい物はいらないけど着物はたんすに入れっぱなしでどうなっているかもわからない、と話すお客様が多いんです。そしてそのほとんどが嫁入りで着物を持ってきた50~60代。その人たちがそれでは、子どもも「お母さんがそうしていたから、どうせ着ないしそれでいい」ってなりますよね。いろんな節目に作った思い出の着物がこれではいけないと思いました。だから、新しい物を売るだけじゃなく、あるものを着てもらったり上手に保管したりする方法を伝えて着物を好きになってほしいと思うようになったんです。着物って海外からもすごいって言われているんですよ。13mある1枚の生地から全部直線で断ち切って1枚の切れるものになるってスゴイ技術だって。でも、それがすごいってことを日本人が知らないんです。販売するだけじゃなく、そういうことを教えていく事も大事な仕事だと思います。それで、たんすコンシェルジュの資格を取りました。

- たんすコンシェルジュとはどのようなことをするのですか?
井野元 実際にお客様のたんすの中の着物を整理し、管理方法や活用法をアドバイスします。でも、まずはその人が普段から着物を着るか着ないか、今後着物とどう付き合うのかなどを聞くことから始まります。その後でたんすの中身を活かす・活かせない、使う・使わないと分け、コーディネートしたり、着物がたくさんあっていつ作ったものかも覚えていない方もいるので、着物の柄や色などから時代を調べたりするんです。実際にタンスを見せてもらうと、一回も着ていないのに染みができていたりするんです。お客様も不思議に思うので、原因を説明していきます。たくさん着物を持っている方は、もういつ作った着物かわからなくなっている人もいるので、着物の柄やデザインを見て判断したりもするんですよ。例えば、裏地の色が赤やピンクだと50代~60代くらいの方がお嫁入りで作った着物だって時代がわかるんです。その時に流行ったものなので。いつのものかわかれば、その人がどんなときに作ってもらったか、その時のことを思い出せるんですよ。「これは子どものお宮参りのときに両親が作ってくれたものだ」とか。

- その人が忘れていた思い出を振り返ることもできるのですね。
井野元 そうなんです。お客様のお母様などがいろいろと作ってくれていたのに、本人はろくに着たことも無かった。だからこの着物が一体いつ作ってくれたものなのかを覚えていない、では寂しいですよね。これはきっとこういうときに着るために作ってくれたんじゃないですか?と、私が言うことでそうだったかも、とお客様とそのお母様との思い出を一緒に振り返ることができたんです。いろんな節目の思い出を共有できるんですよ。そしてTPOのアドバイスや今後着るなら、何が必要・何を足せばそろうのかを伝えます。「この着物はこういうときに着れるけどこういうときには着れませんよ」という風に。また、昔流行した柄や派手な色のものもお直しすれば、新調しなくても今のその人に合ったものになりますから。「お嫁入りのときに作ってもらったものだけど、もう派手で着れない」というような赤っぽい着物も、黒をかけて茶色の無地にしたり。より良い提案をさせてもらいます。また、今後の管理方法もしっかり伝えますよ。例えば、たとう紙(※)が黄色くなるのは防虫剤から発生したガスや閉めっぱなしにしたせいで酸化している証拠なんです。着物は虫よりも湿気でカビや染みができたりするので、たとう紙を交換して白いものにしましょう、とか。染みや汚れがついた着物があれば、加工相談も受けます。でも、それで直してもすぐたんすにしまったら意味がないですよね。だから、着て喜んでもらうまでが私たちの仕事なんです。今後着物を楽しんでもらうために一緒に食事に行ったり出かけたりする機会をつくることもあるんですよ。ここまでやるのがたんすコンシェルジュです。
※たとう紙…着物を包む紙のこと。

- 大変だと思うことはありますか?
井野元 この仕事は、初めて会った方がすぐ「私のたんすも見て!」とはならないですよね。困っていても信用できない人には頼らないと思うので、まず大事なのは的確な知識を持って対応することだと思います。今まで診断した方も、信頼関係を築いてからたんすコンシェルジュの話をしました。だからこの仕事はお店で販売するよりもっと難しいと感じています。そしてそれは、診断するときにも同じ。お客様のところで、見たことない柄の着物が出てくることもあるんです。でも、その場合は正直にわからないことをお詫びして時間をもらい、きちんと調べた上で間違ったことを伝えないようにしています。そのくらい、信頼を得るために努力が必要な仕事だといえますね。

- 今後の目標を教えてください。
井野元 お客様の要望に耳を傾けられるスタッフでいたいなと思っています。この仕事は診断させていただくことが大前提なので、「呉服店に行ったら何か買わされる」と思われがちですが、「きもの相談で」と言ってもらえれば、今ある物をどうするか、活かし方をご提案します。お話を聞くことで初めてお客様の要望がわかり、この仕事も成立するんです。たんすコンシェルジュの仕事はまだ少ないですが、これからもっと多くの人に知ってもらい、困りごとを解決していきたいです。こんなに人の人生に関わる仕事ができるのって素敵なことですから。一生をお手伝いできる仕事と思って働く人がいるんだってわかってもらいたいです。そして、日本が世界に誇る着物の素晴らしさをもっと多くの方に伝えていきたいです。そのために、今の若い方にも着物を身近に感じ、楽しんでもらえるようにいろいろな提案ができるようになりたいので、これからも日々勉強ですね。

tansuconcierge2 時代をさかのぼって調べ物をしたり、最新の流行を知るときの資料や文献たち。

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