「福島にいても世界から評価される時代を、AIを通して作っていきたい」

双葉町生まれ、会津若松市育ちの能勢さん。福島から世界を見据えて事業をスタートしました。
―会津大学に在学しながら起業をしたそうですね。
能勢 はい、起業以前から、学業のかたわらフリーランスのITエンジニアとして活動していましたが、4年生になるタイミングで1年休学して会社を立ち上げました。現在は復学し、4年生として大学に在籍しながら事業に取り組んでいます。
―起業したいと考え始めたのはいつ頃ですか?
能勢 中学生の頃から考えていて、卒業アルバムの将来の夢の欄には「起業して社長になる」と書きました。ただ、その頃は単純に「社長」という存在に憧れがあっただけだったんです。理数系が好き、また新しいものが好きだったのでITの勉強ができる会津大学に進みましたが、その時点でもまだ具体的にやりたいことのイメージはありませんでした。
―なぜAIの分野で起業しようと思ったのでしょうか?
能勢 大学2年生のとき、会津で活動しているフリーランスのエンジニアの方と出会ったのがきっかけです。ITやAI、プログラミングの可能性をいろいろ教えてもらうなか、「自分も仕事としてこの分野を極められるのではないか」と思うようになりました。なかでもAIは、いまや老若男女を問わず、ほとんどの人がその有効性を知るところまで認知が広まっていると感じます。そんなAIの技術を活かして社会的な課題の解決に貢献したいと考えました。
―具体的にどんなものを開発しているのでしょうか。
能勢 「AIを使って社内の仕組みを変えなければ今後の社会の変化についていけない」という危機感を持つ組織は多いと感じます。その危機感とは、主に労働人口の減少や働き方改革によるものです。AIを活用すればその変化に柔軟に対応でき、業務を一気に効率化できます。私たちは、そうした変化に貢献するツールを開発しています。
例えば、営業スタッフの方が1日100件以上の納品先を回らなくてはいけない場合にどう回れば無駄のないルートになるかをAIで分析するようなツールや、トラックの積み荷を効率的な順番で積むことで配送先での積み下ろしを効率化するツールなどを開発しています。この積み荷の効率化ツールでは、会社の幹部の方が何時間もかけて作っていた積み荷の計画書がわずか1分で作れるようになりました。また自社開発として、フリーランスのITエンジニアのスキルをスコア化し、エンジニアとエンジニアを必要とする企業のマッチングを実現する「gitty(ギッティー)というサービスも開発しています。
―仕事において大切にしていることを教えてください。
能勢 福島や東北をベースにしていることが一つの大きな価値だと考えています。一般的に地方は東京に比べてIT化が進んでいないといわれますが、それは、IT化を進めるための課題抽出ができる人材が地方には少ないからだと思っています。また、東京のIT企業に開発を依頼したとしても、距離的な問題から、対面で課題をヒアリングしてもらえることはほとんどありません。その点、私たちは、福島を起点に、県内や東北でIT化に関してお困りの方のもとへ直接足を運び、同じ目線で課題を抽出したうえで開発の提案をすることを大切にしています。
私には、国の違いや地域の違いなど、生まれた環境が理由で適正な評価が得られないような社会を変えたいという思いがあります。その意味でも、東北にいても、福島にいても評価される世界をAIを通して作っていきたいと思っています。
―今後どのように会社を成長させたいですか?
能勢 まずは、課題抽出からの提案が東北で一番上手な会社になることを目指します。その後は上場し、グローバルに事業を展開したいです。そのためにも、今は一人でも多くの人、一つでも多くの組織の解決できない課題を聞かせていただき、その課題を解決するツールを作っていきたいです。
―子どもたちにメッセージをお願いします。
能勢 AIの進化はものすごい速さで進んでいて、これから先、AIがより身近に感じられるような時代が必ずやってきます。生活を支える便利なものとしてAIを使っていくことはもちろん、AIを作る側の人になることもきっと面白いはずです。AIの技術を学び、これからの新しい未来を支える存在になってくれる人が一人でも増えるとうれしいです。

中学時代から続けるテニスが趣味。「でも、最近は仕事が趣味になっているかも」と笑います。

津大学産学イノベーションセンターのスタートアップ・起業支援制度を活用して起業。イノベーションセンター内にオフィスを構えています。
プロフィール
【お名前】
能勢 航羽(のせ かずは)さん
【最終学歴】
会津大学 コンピュータ理工学部
コンピュータ理工学科(在学中)
【趣味】
テニス
【座右の銘】
とりあえずやる
※この記事はaruku2025年10月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。