張り子職人|プロフェッショナル夢名鑑 

和紙を重ねてさまざまな形を作り出す張り子。今回は郡山市西田町に伝わる伝統工芸を進化させながら守る張り子職人にお話を伺いました。

伝統は守り続けるだけでなく、挑戦することで自ら創造できるものだと思うんです。

張り子のボタンがついた作業着を着る橋本さん。

幼少期はどんなお子さんでしたか?

橋本 絵を描くことや何かを作るのが好きな子どもでした。家業である張り子制作が身近だったこともあるかもしれません。祖父が張り子の木の型をノミや彫刻刀で掘っていて、自分も真似てみたけど上手くできない。子どもの頃はケガをすることもありました。でも、祖父の手から生み出される様々な形や祖父のそんな姿を見ていたからこそ、今こうして張り子の型を作ることができる。デコ屋敷は4軒ありますが、木の型を作れるというのは大黒屋の強みだと思っています。

家業と聞くと大変そうなイメージがあります。

橋本 私も以前は高校で美術の先生をしていて、家族の事情で家業を継ぐことになったのですが、初めはなんて手間暇がかかる仕事なんだと、実を言うとデメリットしか感じていなかったんです。でも、和紙の扱いだったり、絵付けだったり、仕事を覚えていくうちに張り子でいろんなことができるのではないかと、様々な可能性を感じ始めてから仕事が楽しくなっていきました。それに、何代にも渡り続いてきたということは意味があると思うし、幼い頃から張り子づくりの環境の中で育ったので苦に感じることはなかったですね。

張り子はどうやって作っているのですか?

橋本 型に和紙を張って作るのですが、良い張り子を作るには良い型が必要です。これまではイメージを具現化するために、木型を掘り和紙を張って完成形を確認し、再度木型を調整するという作業を繰り返していました。時間もかかるし量産もできない。そこで新しい素材やデジタル技術を積極的に取り入れてみることにしたんです。スタイロフォームという素材はカッターでも削れるし、3Dプリンターを活用すれば拡大や縮小・反転、コピーも楽にできる。伝統は変わらない良さもあるけど、変えていくことも大事なんだと思いました。

これまでに印象に残っている張り子はありますか?

橋本 数々の著名な方とコラボさせて頂いていますが、元サッカー日本代表の中田英寿さんのプロジェクトで作った等身大のシロクマです。毛並みも和紙で再現できないかということで、最終的に和紙になる前の繊維の塊をちぎって表現したのですが、これは私にとっても新たな経験になりました。また、隈研吾さんから依頼が来た起き上がりこぼしのペンは、図面通りに制作してもなかなか起き上がらず、試行錯誤を繰り返して100回位試作しました。飾るだけでなく、使える張り子として絶対完成させてやるという気持ちがあったからこそできたんだと思います。

大黒屋ではさまざまな張り子を扱っているんですよね。

橋本 干支やお面、だるまなどいろいろあります。この辺りは毎年一回りずつ良いことがありますようにと願い、昨年より一回り大きなだるまを飾る習慣がありました。しかし、最近は神棚がある家も少なくなり、飾る場所も限られてきています。お客様からも「もっと小さい物はないの?」という声を多く聞くようになり、省スペースでも飾れるものとして作ったのが豆だるまです。可愛いと好評で今ではうちの人気商品になりました。ずっと同じでは伝統が廃れてしまう。ニーズに応えることが伝統を途絶えさせない道の一つだなと感じました。

今後はどのような張り子を作ってみたいですか?

橋本 私は張り子にできないものはないと思っていて、香る張り子や音が鳴る張り子、食べられる張り子なども作っていきたいと思っています。和菓子のように芸術性の高い物を食材を張って作ることができたら、デコ屋敷の新たな名物になるんじゃないかなって思うんです。それから、現在は埼玉県の小川和紙を使っていますが、中田町の海老根和紙でも作ってみたいと思っています。張り子と和紙は切っても切れない関係ですし、張り子を作り続けていくことで和紙の伝統も守っていくことができる。お互いが途絶えないように、また福島の良さを知ってもらうためにも挑戦していきたいです。

橋本さんにとって伝統とはどんなものですか?

橋本 伝統って頑なに昔ながらの物を守っていくだけでなく、生活様式の変化に合わせて自ら変えていくことが必要なんだと思います。300年以上の歴史の中で少なからず変化してきたからこそ、今もこうして張り子が存在していると思うし、それはこれからも変わらず新しい技術を取り入れながら、ちょっとずつ変化していくことが、伝統を繋いでいくことなのかなと思います。

将来ものづくりに携わりたいと考える子どもたちにメッセージをお願いします。

橋本 絵を描いたり、何かを作ったり、興味があるものにはなんでも一生懸命取り組んでみてください。張り子で言えば絵付け体験もあるし、その他のものづくりも話を聞きに行ったり、調べてみたり、いろんなアプローチができると思います。そして、その中で張り子に興味を持ってくれる子がいて、一緒に福島の張り子やものづくりを盛り上げてくれると嬉しいです。

全長2m40㎝のシロクマを模した張り子。


毛並みだけでなく、爪や目なども和紙と絵の具を使ってリアルを追求しました。


お客様からの要望で生まれた手のりサイズの豆干支


お名前
デコ屋敷大黒屋 伝統人形師二十一代 橋本彰一さん(はしもとしょういち)さん
出身地
福島県郡山市
学歴
東北生活文化大学 生活美術学科
座右の銘
DIY(木工が好きで椅子や棚などを造るそう)
休日の過ごし方
なんでもあり!

※この記事はaruku2022年1月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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