ドルフィントレーナー|プロフェッショナル夢名鑑 

イルカと心を通わせ、訪れるお客様をショーで魅了する。今回は、水族館の花形・ドルフィントレーナーにお話を伺いました。

お客様にお楽しみ頂くのはもちろん、イルカにも楽しんでパフォーマンスをしてもらいたい

「イルカがおとなしく触らせてくれると信頼されているんだなと感じます」と伊藤さん。


伊藤さんは小さい頃から海の生き物が好きだったのですか?
伊藤 釣りが好きで、しょっちゅう釣りに行っては釣った魚を水槽で飼育していました。中学生の時には家に水槽が20本位あったんですよ。その頃から将来的には水族館で生き物の飼育に携わりたいと考えるようになり、大学も水産系の学部に進学し、主に魚の繁殖について学びました。今ではトレーナーとしてイルカなどの海獣類も担当していますが、当時の私からすれば魚以外の動物ともこんなに深く関われるとは思ってもいませんでした。

ドルフィントレーナーになった経緯を教えてください。
伊藤 1年の就職浪人を経て、水族館でアルバイトから始めました。魚の飼育を担当しながら全国の水族館の採用試験を受け、5年目にしてようやく正規の職員として就職が決まった時は本当に嬉しかったです。そこからイルカやアシカなどの海獣類も担当することになり、飼育管理から調教なども行うようになりました。初めこそ未経験の分野に戸惑うこともありましたが、飼育員としての新たな道にワクワクとした期待感の方が大きく感じていました。

イルカとのコミュニケーションはどうしているのですか?
伊藤 ハンドサインなど、人間の動きで指示を出します。成功したらご褒美にエサをあげて、たくさん褒める。そうしていくうちに、イルカたちもこれが出来たらご褒美がもらえると習得していくので、言葉が通じなくても意思疎通が取れるようになるのです。初めてそれができた時は私自身もとても感動しましたね。イルカはとても賢く繊細な生き物なので、逆に指示通りに動かない時は何かしらの理由があります。例えばケガをしているとか、仲の悪いイルカが近くにいるとか。トレーナーはそういった要因を見抜き、身体的にも精神的にもフォローしていくことで信頼関係を築いていくのです。

パフォーマンスやトレーニングではどんなことを心掛けていますか?
伊藤 単純にパフォーマンスを楽しんでもらうだけでなく、1~5m先の目標めがけてジャンプしたり、立った状態で胸ビレをバイバイのように振ったり、普段見られないイルカの身体の構造や認知能力を知ってもらえる演目を心掛けています。一度できた技も毎日やる中で完成度が落ちてきてしまうので、パフォーマンス中でも微妙に修正を加えたり、トレーニングもイルカが飽きないように技の順番などを変えたりしています。一頭一頭性格や反応も違うし、そういった個性を見極めながらイルカも楽しんで訓練ができるようにしていますね。

仙台うみの杜水族館のイルカパフォーマンスでは他の動物との共演も行っていますが、飼育やトレーニングを行う上で、イルカと他の動物との違いを感じることはありますか?
伊藤 これまで2つの水族館でイルカを担当してきましたが、体重約200~270kgのイルカが水を蹴る力は約1tとも言われるだけあり、やはりパワーの違いを感じます。プールの深さに比例して跳べる高さも変わりますが、他の海獣類でもイルカほど高くは跳べません。そういった海洋生物の身体能力の違いを分かりやすく伝えることも私たちトレーナーの役割だと思います。また、親イルカに教えた動きを、隣で見ていた子イルカが真似して同じ動作をしていたことがあり、想像以上に頭がいいんだなと感じましたね。

ショーを行う上で気をつけていることはありますか?
伊藤 太陽の光や風の強さなどの環境によってもパフォーマンスに影響が出てきますし、イルカはトレーナーの表情もよく見ているので、不安や緊張感が伝わらないようにトレーナー同士の意思疎通も密にとるようにしています。パフォーマンスでは見た目の美しさにもこだわり、指先・足先まで意識しています。動物とトレーナー、そして観客が一体となったステージはなんとも言えない充実感がありますし、「楽しかった」「私もやってみたい」という声が聞かれるとトレーナー冥利に尽きます。

パフォーマンスを通じて、見ている人に伝えたいことはどんなことでしょうか。
伊藤 展示だけでなく動きのあるパフォーマンスは動物たちの躍動感も伝わりますし、同じ海に生きる動物たちの違いをリアルに感じてもらえると思います。また、パフォーマンスでは鳥類との共演も行っていますが、海・陸・空に生息する色んな動物を直に見て、可愛い、すごい、といった驚きと感動を与えたいです。そのために、チームの仲間と一緒に常にアップデートを心掛けていますし、ショーを通じて自然環境について考えるきっかけになればと思っています。

将来、動物に携わる仕事に就きたいと考える子どもたちにメッセージをお願いします。
水族館や動物園での飼育は命を預かると同時に、まだ知られていない動物の生態を知ってもらえる貴重な場所でもあります。動物についての知識が増えていくことは背景にある海の環境を知ることにもつながるのでとても興味深く、水族館で働くという夢を諦めなくて良かったと思います。みなさんもやってみたいと思うものがあるなら、できることから始めてみたり、どんどん調べたりして、最後まで諦めない心を大事にしてください。

ショーではバンドウイルカやアシカと共に、さまざまな技を披露。(右:伊藤さん)


お名前
伊藤(いとう)さん
休日の過ごし方
飼育しているグッピーの水槽の掃除や、釣りの動画視聴など
座右の銘
夢は見るものではなく叶えるもの

※この記事はaruku2022年6月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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