映画監督|プロフェッショナル夢名鑑

『ウルトラマン』や『ゴジラ』など迫力ある特撮作品を生み出す、映画監督にお話を伺いました。

「自分の作品にお客さんがワッと沸く。すべての苦労が吹き飛ぶほどの快感です」

『ウルトラマンZ(2020年)』を始め数多くのウルトラシリーズで監督を務める。怪獣映画の普及や後進の育成にも力を入れている。左は「すかがわ特撮塾」の撮影のために地元の中学、高校生と制作した「怪獣ヨロイガー」。


「特撮」とは、どんな撮影方法なのでしょうか?
田口 特撮とは「特殊撮影技術」を略した言葉で、ウルトラマンやゴジラのような作品を撮影する技術といえばイメージしやすいかもしれません。私はこれまで『ウルトラマンZ』など多くのウルトラシリーズで監督を務めてきました。ミニチュアの街のセットを作り、そこで怪獣が戦うような映像を、特殊な効果や装置を取り入れて作り出します。怪獣や戦隊もののほかにも、アクションや戦争、ホラーなど、さまざまなジャンルの映画やドラマで用いられる撮影技法です。

特撮作品の映画監督になろうと思った理由を教えてください。
田口 とにかく特撮が好きだから。それだけです。幼少期の最も鮮烈な記憶は、4歳の時に祖父と観に行った『ゴジラ』の映画。その後もゴジラやウルトラマンなど、特撮のドラマや映画を観て育ちました。そのうち観ているだけでは物足りなくなり、中学2年生頃からは、テレビで観たゴジラの制作過程を自分なりにまねて、友人を集めて怪獣が登場する映画を撮るようになりました。映画といっても、最初は布団をかぶった友達が段ボール箱をひっくり返すだけの、ストーリーも何もないようなもの。一つの作品なのに、参加できる友人が撮影のたびに違うので、同じ役なのに違う人が演じたこともありました(笑)。その後、映画の専門学校に進学し、在学中から実習生という形で特撮の映画制作現場に参加して、助監督や美術担当、合成担当として特撮の技法を学んできました。周りにも特撮好きはいましたが、観るのも作るのも楽しくて、大好きな怪獣映画の道を進もうとすることに迷いは一切ありませんでした。好きでいることをやめなかった結果が今につながっていると思います。

どうすれば映画監督になれるのでしょうか。
田口 今であれば、スマホで動画を撮影して、それを映像作品にできれば、それはもう「映画」であり、その時点で監督を名乗れます。しかし、それではまだ趣味の延長。お金をもらって仕事として映画監督を名乗るためには、映画館で放映されるような作品を生み出せる存在として認めてもらわなければいけません。その道筋の一つが、自主制作映画で評価を受けること。私は中学時代以降も映画を作り続けていました。撮影現場でお世話になった人にその作品を観てもらっているうちに声が掛かり、『長髪大怪獣 ゲハラ(2009年)』という作品で商業映画の監督としてデビューすることができたのです。

映画制作で苦労することはどんなことですか?
田口 映画監督というのは、撮影や演出、キャスティングや脚本など、作品全体の方針を決めて指揮をとる立場です。仕事のすべてにおいて人とのコミュニケーションが必要となります。それぞれの役割を持つ人に自分が持つ作品のイメージをしっかり伝えてまとめることに難しさを感じる場面は多いです。

やりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?
田口 映画制作って、山登りみたいなものです。風景や自然を楽しみながらも、登っている間はとにかくしんどい。でも頂上に立った時には何物にも代えがたい感動があります。映画も同じで、作っている時は大変だけれど、完成した作品を観ると、すべての苦労が吹き飛びます。上映してお客さんがワッと沸く瞬間は、かなりの快感です。しかも作品は、自分が生きている間どころか何十年先まで残っていく。そうした仕事はあまりないと思います。

2022年は、特撮アーカイブセンターの「すかがわ特撮塾」で地元の中学、高校生と特撮映画を制作されましたね。
田口 僕にとって、円谷英二監督の特撮文化を継承している須賀川市はまさに聖地。ウルトラマンやゴジラシリーズの生みの親である円谷監督が作ってきたものが自分の仕事の中心になっているし、私の人生のレールは円谷監督が敷いたものだという自覚があります。特撮塾では、参加者に特撮の楽しさを伝えたいと思いながら、一つの作品を一緒に作り上げました。技術は身に付ければ身に付けるほど楽しくなる。だから実際の現場で用いられる専門用語をあえてガンガン使い、わざと難しいことも教えました。それでも撮影の厳しさを含めた「プロの仕事の縮小版」にしっかりついてきてくれる参加者の熱意と吸収力には、驚かされましたね。

今後の目標を教えてください。
田口 ゴジラ作品を撮ることですね。すべての映画、すべてのジャンルの中で一番好きなものは何?って聞かれたら、今でもゴジラなんですよ。ゴジラがずっと人生の主軸にあります。

子どもたちにメッセージをお願いします。
田口 自分が楽しいと思うことや興味を持てることが仕事である必要は必ずしもないと思っています。でも、自分の「好き」を仕事にできるっていいものですよ。何が好きかまだ見つけられていない人もいると思いますが、早いうちに見つけておくと、好きなことを仕事にする近道になるかも。近道だったはずの道の途中で別の道を見つけて、全然違う好きなことにたどり着くこともあります。まずはどんなことにも興味を持ち、楽しそうと感じるものがあれば掘り下げてみてください。

思い入れのある作品の一つとして、テレビドラマの『ウルトラマンZ(2020年)』を挙げた田口監督。「視聴者にこう受け取ってほしいという思いが届いて、人気として跳ね返ってきた」と話します。


「すかがわ特撮塾」の撮影を振り返る田口監督。


お名前
田口(たぐち)さん
目標の映画監督
スティーブン・スピルバーグ

※この記事はaruku2023年5月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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