アニメプロデューサー |プロフェッショナル夢名鑑

自分が真っ先に楽しまなければ、おもしろいことはできないんです

福島ガイナックス内「ガイナックス流アニメ作法展」に展示してある武田さんのイラストの横で。

武田さんはどのような子どもだったのですか?

武田 小説やマンガを読むことが好きでしたね。中学時代には、図書館の本を全て読みたいと思って図書委員にもなりました。結局、興味のない本もあって全て読むことはできませんでしたが、あらかたは読みましたね。高校に入ってからは趣味として友達とロックバンドを組んだり、クラシックギター部に所属してフラメンコを弾いたり。昔から興味を持ったらやらないと気がすまない性格なんです。

アニメの世界に興味を持ったのはいつごろですか?

武田 大学進学後、特撮やSFのイベントに参加するうちに自然とですね。学生のうちに特撮やSFのフィギュアなどグッズを扱う会社を立ち上げたんですが、一緒にやっていたメンバーでアニメも作れる人がいたので、せっかくだからアニメを作ってみよう!ということになって。企画をBANDAIに持ちこみ、パイロットフィルムも制作したんです。それから、もう学生の集団じゃないのだからとアニメの制作会社としてガイナックスを立ち上げました。実際に制作に携わるようになって、アニメを作るにはいろんな人が関わっているということを知りました。

いろんな人とは、例えばどんな方ですか?

武田 アニメの制作スタッフには、「監督」という肩書きの人が多くいるんです。全体を取りまとめる監督。そして1つのアニメに対して、まず作画を描くアニメーターたちをまとめる作画監督がいます。次に、取りまとめの監督と相談しながら音を作る音響監督とアニメの背景を作る美術監督。音響・美術に関しては専門の会社に委託することが多いです。さらに、撮影を取りまとめる撮影監督に、CGを使用する作品にはCG監督もいるんですよ。

「天元突破 グレンラガン」は武田さんが温めてきたテーマを盛り込んだ思い入れのある作品です。

各部門に取りまとめる監督がいるんですね。

武田 そうなんです。他にテレビアニメの場合、一人の監督が全て担当するのではなく1話1話は演出が担当しています。もちろん、監督は全てを見ているので演出は助監督のような感じですね。そこにプロデューサー、キャラクターデザイナー、脚本家、絵コンテを描くコンテマンなども含めるとかなりの人が関わっています。基本的に、一つのアニメを作るときは一つのスタジオでは作れないんです。だからアニメ映画のテロップを見るとスタジオ名がずらずら出てくるように、アニメの制作には何百人という人手が必要なんですよ。

アニメを作るうえで大変なことはなんですか?

武田 オリジナルアニメを作るとき、5分のものも5時間のものも最初の手間は同じなんです。さらには今、年間100タイトルくらいのアニメが世に出ていますが、ヒットするのは10本に1本くらいの割合です。20年前と今では作品の数が違うので消費者も分散されてしまうんですよ。さらに、一生懸命制作した作品の評判が悪いと心も痛みます。それでも頑張れる強い気持ちがないとこの仕事は続けられませんね。あとは絵が好きかどうか、アニメというものに対して自分がどれだけ思い入れがあるのかも大事だと思います。

廃校を利用した福島ガイナックスのミュージアム、さくら遊学舎。

4月には三春町に福島ガイナックスのミュージアム、さくら遊学舎を開館しましたが、福島へ進出するきっかけは何だったのですか?

武田 震災を風化させない、福島から明るい話題を発信することでマイナスのイメージを払拭したいという思いからです。そのために、次世代を生きる子どもたちや若い人に興味を持ってもらえる場を作りたいと思いました。さくら遊学舎ではアニメ制作の過程を知る「ガイナックス流アニメ作法展」や数々のフィギュアも展示しているので、遊びに来てアニメを好きになってもらえればと思います。ゆくゆくはここでアニメ制作ができるスタジオも作りたいと考えていて、実際に未来のアニメーターたちが今研修を受けているところなんですよ。まだまだ始まったばかりですが、まずは地元の皆さんにもっと知ってもらい、楽しんでもらいたいですね。

仕事をする上で心がけていることは何ですか?

武田 私は今までアニメに関して絵を書く以外の仕事は全て経験しました。その中で調子が悪い時があっても、楽しむことを忘れないようにしています。つまらないと思った時点でダメになるので、何かに興味を持ったり、徹底的に遊んだりすることは忘れないようにしたいんです。どんな経験でも後々どこかで役に立ったりしますから。さらにこの仕事は、みんなが同調してつくるものほどつまらなくなります。それは中庸をとっているだけだから。作品はどこかとがった部分を持ち、それが見ている人にひっかかるからこそ心にも残るんです。だから、ひっかかりを作るためにありとあらゆるものを考えます。企画の段階でも、「あ、そっちのほうがおもしろいね」と思わせた人の意見が通るんです。そうやってみんなで作り上げるものがこの仕事の醍醐味ですね。今後もやりたいと思うことがまだまだあるので、体力が続く限り仕事を続けていきたいと思っていますよ。

様々なアニメのフィギュアブースも。

来館した人が自由に描いたイラストが、館内のいたるところに展示してあります。

お名前
株式会社福島ガイナックス 取締役 武田 康廣(たけだ やすひろ)さん
出身地
大阪府泉北郡忠岡町
出身校
近畿大学理工学部原子炉工学科
モットー
何があっても逃げない。最後まで立ち続ける。
株式会社ガイナックスの主なオリジナル作品
『トップをねらえ!』 『ふしぎの海のナディア』 『新世紀エヴァンゲリオン』 『天元突破グレンラガン』 『放課後のプレアデス』

※この記事はaruku2015年8月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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