郡山市

福島―つくりびとを訪ねる①「大堀相馬焼 陶徳/陶 正徳さん」

32319歳で窯を継ぐと決め、修行の後25歳で陶徳窯に戻ったという10代目陶正徳さん。伝統の大堀相馬焼を受け継ぎながら、その技術を現代的なデザインに昇華しています。

259お皿やカップは1,620円くらいから手に入ります。

青ヒビ・走り馬・
二重焼の伝統。

 大堀相馬焼といえば、青みがかった釉薬にヒビの入った「青ヒビ」、「走り馬」の絵、そして「二重焼(二重構造)」が特徴。江戸時代中期に浪江町大堀で生まれ、320年以上伝わってきた生活の器です。
 「陶徳」が郡山に新しい工房を開いたのは3年前のこと。十代目の陶正徳さんは、先代や奥様と共に伝統を守りながら、その技法を活かした現代的なデザインを意欲的に創り出しています。
 「大堀相馬焼に真剣に向き合ったのは震災後かもしれません。何度かヨーロッパに行く機会があって、海外の方々が器の味わいや二重構造の知恵を面白がってくれるのを目の当たりにしました。子どもの頃から慣れ親しんだものですが、改めて大堀相馬焼本来の良さを認識しています。窯が変わり、浪江の原料も採ることができなくなった今、新しい素材でどうやって同じ色を出すか、伝統をどうつないでいくか、試行錯誤しながらベースを再構築しているところです。手間はかかるんですが、うちは手作り・手描きにこだわってやって行こうと思います。」

275伝統の大堀相馬焼。内と外を別に作って組み合わせる二重焼は、精度が求めらる高度な技術です。

295やさしい三角形のお皿。よく見ると、繊細なヒビが入っています。

248工房の2階はギャラリー。1点ものの作品との出会いを楽しんで。

340
306陶徳の作品はすべてが手作り。手に馴染む気持ち良い形はここから生まれます。

371馬の絵付けは奥様が担当。耳元には大堀相馬焼のピアスが光っていました。
436浜に遊ぶ千鳥を型どった透かし彫りが美しいアロマポット。

302工房の照明も陶さんの作品!くっきりとした青ヒビは、土と釉薬の収縮率の違いによって生まれるヒビに墨を塗り込んで作るそうです。

伝統の技と知恵を
今の用途・デザインで。

 工房2階のギャラリーには、伝統の作風とはひと味違うデザインの作品も数多く並んでいます。
 「元々僕は自由に作品を作る方が多かったんです。大堀相馬焼は日常雑器ですけれど、食器にこだわらずランプシェードや表札、コーヒードリッパーなども作ります。形を遊んだり、別な色を足したり引いたりしながらも、どこかに大堀相馬焼らしさを残すことを考えています。例えば二重焼って、保温効果があって熱い飲み物も持ちやすいから、手の平で持つフリーカップにぴったりなんです。」伝統とは、技と形を継承するだけでなく、時代に合わせて進化していくものというのが、陶さんの意見。時代のニーズに応えてきたからこそ、今に残っているのだと納得します。「焼物は手の感覚で作っていくので、同じものを作るのが難しいんです。サイズを測り同じように色を作っても、表情は微妙に変わります。よくネットで売らないのかと聞かれますが、同じものが2つとないので、できれば工房に来て、直接作品を見ていただきたい。体験もできるし、作っている工程を見るのも楽しいと思います。」

※この記事はaruku2019年2月号に掲載したものです。

福島―つくりびとを訪ねる
焼き物、織物、工芸品、酒…福島には何百年も続く“つくる”伝統と、それを受け継ぎ、今に伝える人たちがいます。“つくりびとを訪ねる”では、伝統を重んじながら、時代に合わせさらに新しい伝統として伝えていく人々を、arukuが訪ねていきます。

Vol.1「大堀相馬焼 陶徳」-陶 正徳さん

―「技術を受け継ぐのは継承、時代と並行して進化していくのが伝統だと思うんです」

IMG_0020薄いグリーンに細かく入ったヒビ文様、走り駒の絵、そして二重焼(ふたえやき)といわれる独特な形。これら大きな特徴のある大堀相馬焼は昭和53年に国の伝統文化財に指定され、焼き物に興味がある人なら一度は目にした人も多いのではないでしょうか。

この湯飲みを作った窯元は、郡山市に工房を構える『大堀相馬焼 陶徳』さん。郡山中心部近くの国道から住宅街に入ったところに、陶さんの窯があります。自宅に隣接した工房は、1階が陶さんの作業場、2階がショールームになっており、陶芸体験も可能だそう。

IMG_0116こちらが陶 正徳(すえ まさのり)さん。大堀相馬焼の窯元のひとつ「陶徳」の若き10代目です。陶徳は、正徳さんのご先祖様、徳蔵さんの字をあてた名前。もともとはお父さんの代まで浪江町の大堀地区で窯を営んでいましたが、東日本大震災による原発事故で避難を余儀なくされ、2016年に郡山市で工房をリニューアルし、再開しました。

IMG_00792階のショールーム。様々な作品が並べられており、焼き物の幅広さをうかがえますね。ひとつひとつ見ていくと、

IMG_0055伝統的スタイルの器の他、

IMG_0005ピンクやブルーの可愛らしい湯飲みだったり、

IMG_0050これも相馬焼なの?と思うほどシンプルでかわいいコーヒーカップだったり、

IMG_9999釉薬とヒビを活かしたアート作品のようなお皿だったり、

IMG_0041なんと福島県の形をした箸置きだったり(奥に置いてある猫型箸置きもカワイイ!)、

IMG_0035さらにランプも!(相馬焼で作れちゃうんですね!)
色、形、用途など、現代ぽい新しい作風が多いですね~。

そもそも、大堀相馬焼とは?

大堀相馬焼はおよそ300年の伝統を誇る、浪江町大堀を代表する陶器。相馬焼とよく言われますが、浪江町大堀地区で作られるため、正式には「大堀相馬焼」と呼ぶのが正しいとのこと!大きな特徴は最初に述べた通り、陶器全体に入った「青ひび」、内側と外側で2つの器を重ねる「二重焼(ふたえやき)」の構造、狩野派の筆法といわれる「走り駒」など。しかし焼き物に関しては全くの素人の筆者。ここからは陶さんに大堀相馬焼について詳しく教えてもらいました。

走り駒

IMG_0063「走り駒とは馬のこと。大堀焼に描かれる馬は、相馬野馬追の伝統を有する旧相馬藩の「御神馬」が描かれています。左に向いているので「左馬」とも呼ばれ、「右に出る者がいない」という意味で、縁起物として庶民の間で親しまれてきました。1つ1つ手書きで描いているので、大堀相馬焼のファンの中には、見ただけでどこの窯元かわかる方もいるんですよ。」

IMG_0056「これは顔を向かい合わせて対になっていて、ペアカップとして結婚祝いや記念日に喜ばれていますね。」

今はコスパを考え、転写(シール)で描かれているものもあるとか。昔は基準となる人がいて、みんなその絵に近づけるように習っていたそうです。ちなみに陶徳では手書きにこだわって、すべて1つ1つ手書き。ですが、「僕は絵が苦手なので、父親や、まだまだ修行中ですが奥さんが主に描いていますね」。へえ、奥様が描かれているんですね!ちなみに下半分に色を塗ったものは、請戸(浪江)の海をイメージしたもの。そしてハートマーク型の穴は海上を飛ぶ浜千鳥を意味しています。それぞれの特徴の意味を知ると、やはりこの浪江の地だから出来上がったものだと感じますね。

二重焼

IMG_0015 「機械がまだなかった時代、大堀は産地の中では焼き物の北限といわれていたんです。大堀より北の地域になると、土が凍って焼き物が作れなかったそうなんですよ。二重になったいわれは、寒い時期でも注いだお湯が冷えにくく、また手に触れる時に熱くないよう二重にしたと考えられています。この作りは伝統焼では他に見られませんし、アメリカでは「ダブルカップ」と人気を集め、たくさんの湯飲みが海外に輸出されていました」。

青ヒビ

IMG_0017 「そしてこの細かいヒビは、土と、その上に塗った釉薬の収縮率の違いで入るんです。陶器は約1300度の高温で焼き上げた後、外気に触れて冷えて縮みます。その時、表面のガラス質に細かいヒビが入り、そこに墨を塗り込んで、独特のヒビ文様ができ上るんです。ですから(写真の右側のように)ヒビが入っていないように見えて、実はちゃんと細かく入っているんですよ」。


ヒビが入る瞬間、“ピーン” “ピーン”とガラス風鈴のような澄んだ貫入音が聞こえる相馬焼。この音は「うつくしまの音30景」にも選ばれています。なんとも癒される音ですね~。

10代目が考える『伝統』と『大堀相馬焼』

「大堀相馬焼はこれら大きな特徴がありますが、300年以上前、焼き物がはじまった当初は白くて、ごくごくシンプルな形だったんですよ」。えっ!最初からこの形ではなかったの?と驚くと「大堀相馬焼だけでなく、伝統と言われるものは、特徴を加えながら、あるいは何かを省きながら、今の形になってきたんです」と、陶さんは言います。

インタビューをしていて、一番印象深かったことは「昔からある技術や形をそのまま受け継ぐことは“伝統”ではなく“継承”。伝統というのは、その時代のニーズに合わせて“常に進化していくもの”だと思っています。」と、語ったこと。例えば、湯飲みは昔どの家庭でも置いていたけれど、お茶を淹れる習慣が減ってきた今、ほとんどがコーヒーカップやマグカップ。確かに、生活スタイルが変化した今、昔の器をそのまま使う機会は少ないですね。

「親の代までは伝統的な焼き物を作っていたのですが、私の場合、伝統を活かしつつアレンジを加えて、今の時代に合った作品も作っていきたいんです」。だから、伝統的なものだけでなく、新しい作風が多いのですね。
今、震災の影響で県内各地に散らばった窯元はおよそ10。土も釉薬も、大堀産ではなく現代の技術によって再現したものなのだそう。なので「場所も材料も違うのに、大堀焼と謳っていいの?」と言われることもあるとか。「土の産地=焼き物の産地というイメージがあるので、私自身も考えてしまうこともありますよ。だけど代々受け継いできた技術がある以上、やっぱり私なりに大堀相馬焼を伝えていきたいですね」と、語ってくれました。

IMG_0107最後に奥様のかおりさんとお子さんとのスリーショット。奥様は絵付けの他、作品作りにもかかわることもあるとか。

IMG_0078そしてこちらが、先ほど紹介した福島の形の箸置きと、奥様の出身の大阪の形の箸置き。すぐ売り切れるほど人気のこのアイテムは、お二人の結婚式でプチギフトとして作ったのがはじまりだとか。「関西出身の彼女のおかげで、作風も変化しましたね。女性らしさを感じる器とかが多くなってきたと思います」。お二人の仲睦まじさと、二人三脚で伝統を繋いでいく様子がうかがえます。これからどんな新しい大堀相馬焼を見せてくれるのか、楽しみですね♪

―インタビューを終えて

福島の伝統工芸品の一つ、というイメージだった大堀相馬焼。陶さんにお話を伺うと、その長い歴史やストーリーに、とてつもない奥深さを感じました。何百年と受け継がれてきた中で、その地域のオリジナリティが徐々に形作られ、そして進化し続ける“伝統”。簡単に絶やしてはいけないという責任と誇りを、陶さんのお話から感じることができました。

大堀相馬焼 陶徳
福島県郡山市田村町金屋字上川原176
TEL: 090-4476-8406
営業時間:9:30~17:00
定休日:火曜日、不定休(事前にお問合せを)
Facebook:https://www.facebook.com/Oborisoumayaki.Suetoku/

※この記事は2018年11月に制作したものです。

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