郡山駅前

脂肪と乳がんの関係

女性のための医療コラム

「脂肪と乳がんの関係」
このコラムで以前、肥満は乳がん発症リスクを高めるというお話をしました。ですが、アメリカではハ-バ-ド大学が中心になって9万人の看護婦を対象とした研究を行ったところ、「脂肪を多量に摂取しても、乳がんにはならない」という驚くべき結果が出ました(1)。その後も、同様の結論を示す研究が相次ぎ、日本の学者たちからも「脂肪摂取を控えても、乳がん予防には役に立たない」という声もあります。果たして、それは正しいのでしょうか。
この研究では、脂肪摂取量が総カロリ-の30%の人を「低脂肪群」とし、45%の人を「高脂肪群」として比較していますが、脂肪摂取30%では、むしろ高脂肪に当たります。さらに、問題点を指摘すると、被験者の女性たちには、肉食者が多かったにもかかわらず、動物蛋白摂取のリスクが考慮されていませんでした。ここに、落とし穴がありました。
一方、コ-ネル大学とオックスフォ-ド大学が中国農村部で進めてきた疫学調査–China Projectの研究結果によれば、あきらかに、高脂肪食が乳がん発症のリスクになっています(2)。低脂肪(10-15%)食の女性は高脂肪(30%)食の女性に較べて、乳がんが圧倒的に少なかったのです。また、低脂肪摂取者は、同時に多種類の野菜果物を食べていることも分かりました。ジョ-ジタウン大学の研究によれば、妊娠中女性が高脂肪食を摂ると、生まれてくる女の子の乳がんリスクが高くなる、という驚くべき結果が報告されています(3)。
私は、日本で近年乳がんが激増しているのは、一つには、二世代にわたって続けてきた食生活の変化、特に「高脂肪食の摂取」だと推測しています。胎児期から思春期の生活習慣はその後のお子さんの食生活にも大きく影響します。いま妊娠中の方や、子育て中のお母さんはもちろん、女性のみなさんは食べすぎ、飲みすぎ、偏食などしていないか、普段の食生活を見直してみませんか?これは生活習慣病を予防することにも大きくつながります(4)。

(1)N Engl J Med. 1987 Jan 1;316(1):22-8.
(2)http://www.nutrition.cornell.edu/ChinaProject/
(3)Hilakivi Clarke L: Breast Cancer Research Treat,46,23,199-214 1997
(4)Breast Cancer Res. 2003;5(3)

お話をうかがった先生

170524_0富永國比呂先生
1975年、岩手医科大学医学部卒業、東京衛生病院産婦人科医長を経て、米国ロマリンダ大学大学院博士課程修了。日本産科婦人科学会専門医、日本性感染病学会会員、医学博士、米国公衆衛生学博士(Dr.P.H.)、国際個別化医療学会幹事、Personalized.Medicine Universe査読委員。

※この記事はaruku2018年12月号に掲載したものです。

連載