消防士|プロフェッショナル夢名鑑 

火災現場での消火活動から、事故や災害における救急・救助活動など、あらゆる場面で人の命を繋ぐ女性消防士にお話しを伺いました。

命を守る責任ある仕事ですが、その分返ってくるものも大きいです。

大型特殊車両の運転技術を磨くため、カルチャーパークの駐車場で練習することもあるそう。

消防士を目指したきっかけを教えて下さい。
工藤 父が消防士だったこともあり、幼い頃から漠然と人の役に立てる保安職に就きたいと思っていました。警察官や自衛官なども考えていたのですが、私が高校2年生の時に郡山消防で初の女性消防士が採用されたことに大きな影響を受けましたね。初めは救急救命士を目指していたのですが、消防士として採用されてからの経験が今の私の任務に大きく繋がっています。

工藤さんは初め救急救命士を目指していたんですね。
工藤 採用後でも救急救命士は目指せるので、まずは消防隊員として活動することにしたんです。採用されると福島市にある全寮制の消防学校で、消防に関する法律や、消火・救助活動における資器材の扱い方などを学びました。その後、火災予防の分野に配属となり、多くの命を守れる消防士の仕事にやりがいを感じました。また、結婚や出産といったライフステージが変化したことで、予防業務に特化した消防士として任務を全うするようになりました。東日本大震災時には長男を妊娠中だったのですが、消防指令センターで通報を受けたり、情報収集をしたり、体に負担のかからない範囲で後方支援に当たっていました。

現在も郡山消防署の予防係で活躍されているんですよね。
工藤 消防といっても火災を消す「消防」、患者さんを病院に搬送する「救急」などの現場活動、未然に火災を防ぐ「予防」などいろんな分野に分かれています。消防士=消火活動のイメージが強いですが、火災などで緊急出動がない時は、法律に基づきホテルや病院、商業ビルなどで消防設備や防火に関する指導・検査に当たっているんですよ。建物によってスプリンクラーや消火器の設置数も違いますし、建てた時は万全でも建てた後に問題が出てくることがあるため非常に重要な仕事です。建物の所有者からはめんどくさがられることもありますが、商業ビルなどは所有者だけでなく、そこを利用する人達を守る上でもとても大事なことですから。

充分な理解を得るためには、苦労も多いのではないですか?
工藤 そうですね、でも予防あっての消防ですし、納得のいくまで説明をします。漏水やエレベーターの故障などに比べると消防設備はどうしても後回しにされがちです。自分のところは大丈夫だろうという気の緩みが火災に繋がることも多く、ついつい厳しい指導になってしまうこともあります。それでも、予期せぬ原因で火災が起きた場合には、被害を抑えられるよう備えておくことが大事です。検査や指導によって、全ての問題が改善できた時は達成感ややりがいも感じますね。

実際の火災・救助現場での活動はいかがですか?
工藤 火災現場の最前線で消火活動をする際は、防火衣を着ていてもかなり熱いですし、真っ黒な煙で前も見えず恐怖心が襲ってくることもあります。ですが、自分が助けなければ誰が助けるのか、1㎝先の命を絶対助ける気持ちで臨んでいました。また、ポンプ車やはしご車といった大型特殊車両を運転・操作する際は、住民の方はもちろん隊員の安全も守らなくてはなりません。現場も混乱していますが、そのような状態でも迅速に消火・救助活動に当たれるよう、無線で入ってくる情報を集中して聞き、隊の皆で情報を共有するようにしています。

これまでの活動の中で印象に残っているものは何かありますか?
工藤 山火事の現場で20㎏の水を背負って急斜面の山を登った時は疲れと煙で本当に息ができず、とっさに地面に穴を掘って呼吸したのは自分でも驚きました。水を背負っているので空気呼吸器のマスクも装着できず、煙で肺が蓋をされたようにすごく苦しいんです。住宅火災などでも水に顔を付けたまま、苦しい表情で亡くなった方も多く見ました。火災で本当に怖いのは煙です。そういった状況を回避するためにも、消防訓練や講習などを通して火災予防について伝えていきたいですね。

コロナ禍ということもあり、講習会などの機会も少ないのではないですか?
工藤 昨年からオンラインを利用した庁舎見学や動画配信も行っています。レンジからの発火など、身近に潜む火災の原因を家庭でも学べるよう、広報と連携してわかりやすく説明しています。電気系統から火災に発展することも多く、オール電化だから安心ということもありません。また、アルコール消毒液が完全に乾く前に火に近づけることで、思わぬ火傷や火災が生じるケースもあります。これからはキャンプやバーベキューも増える時期なので、特に注意してもらいたいですね。

最後に消防士を目指すお子さんにメッセージをお願いします。
工藤 生死を分ける現場では、相当な覚悟が必要になります。命を懸ける仕事は想像するだけでも大変なことですが、その分返ってくるものも大きいです。1人でも多くの命を守ること、人生に携われることはやりがいの部分でも大きな意味がある仕事だと思いますよ。

消防法を基に建物への所有者に説明を行う工藤さん。法律に関する本の厚みにも驚き!

お名前
工藤(くどう)さん
座右の銘
明日は明日の風が吹く
休日の過ごし方
子どもと外で遊ぶ・旅行

※この記事はaruku2021年6月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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