「美しさだけでなく、訪れた人の過ごしやすさまで考えてデザインします。」

26歳で空間デザインの世界に。「興味を持ち挑戦することが大事」と子どもたちにメッセージを送る猪越さん。
―空間デザイナーとはどんな仕事ですか?
猪腰 建物の内装デザインを考え形にする仕事です。私の場合は主に店舗デザインの内装を手がけています。まずはお店を始めたいお客様から理想の店舗イメージをヒアリングし、その内容をもとにデザインを考えます。お客様のデザイン案が固まったら、ご希望の日程通りに完成するよう、図面の作成、実際に内装を作る職人さんや部材の手配、工事スケジュールの管理などをおこないます。個人営業の小さい飲食店からオフィスなど、手掛ける空間はさまざまです。
―この仕事を志したきっかけを教えてください。
猪腰 学校を卒業後、配送の仕事をしていましたが、26歳の頃、店舗デザインを手がける会社の建物がたまたま目に入り、その外観のカッコよさに惹かれました。直感的に「ここで働きたい」と感じ、求人に申し込み、幸運にも採用されて、その会社に転職しました。それまでは、店舗デザインという仕事があることさえ知りませんでしたが、その後経験を重ね、2025年4月に独立して自分の会社を立ち上げました。
―未経験からのスタートに不安はありませんでしたか?
猪腰 何もわからなかったので戸惑うことが多かったですし、最初は面白さを感じる余裕もありませんでしたが、大変さよりも興味の方が大きく、不安はまったくありませんでした。「会社の役に立ちたい」「早く一人前になりたい」という思いで必死だったのだと思います。
―どのようにして仕事を覚えましたか?
猪腰 誰かが手取り足取り教えてくれるのを待つのではなく、先輩の背中を見ながら自分から学んでいきました。とにかく図面を書き、現場に出て、先輩や職人さんの仕事を見ながら一つひとつ覚えていきました。そのなかで常に意識していたのは、わからないことをそのままにしないことです。「わからないので教えてください」と素直に伝え、言葉で教えてもらったうえで、職人さんの仕事をじっと観察する。そうやって少しずつ知識を増やしていきました。
―仕事に必要な資格はありますか?
猪腰 資格がなくても始められる仕事です。パソコンを使って設計・製図をするCAD(キャド)と呼ばれるソフトが使えると便利ですが、それも仕事をするなかで覚えていけば問題ありません。この仕事に限らないことですが、一番大切なのは、やる気だと思っています。やる気があれば仕事を覚えるスピードが速くなりますし、仕事を覚えれば面白い現場を任せてもらえるようにもなります。とにかく「まずはやってみよう」という気持ちが大事だと思います。
―仕事のやりがいを教えてください。
猪腰 お客様の思い描いたイメージを形にしていく、その過程に携われることです。ヒアリングでは、どんなデザインにしたいかよりも、何を実現したいのかを聞くようにしています。そのお店にはどんな人に来てほしいのか。来店した人にどんな気持ちになってほしいのか。そうした想いを丁寧に汲み取りながら、空間として組み立てていきます。「木目調が好き」「落ち着いた雰囲気にしたい」など、お客様の具体的な好みも大切にしますが、その前に「何のためにお店を作るのか」を共有することが、良い空間づくりはかかせないと考えています。機能面を考えることも大切です。例えば照明一つをとっても、単に明るければ良いわけではありません。その店舗が提供するサービスによって、均一な光が必要な場合もあれば、あえて陰影をつくることで居心地の良さを演出する場合もあります。見た目の美しさだけでなく、その場所を利用する人の過ごしやすさまで考える。それがこの仕事の面白さです。
―今後、手掛けてみたいと思う空間はありますか?
猪腰 飲食店もいいですし、地域の交流拠点のような施設もいいのですが、人が自然に集まりたくなるような魅力ある場所をつくりたいです。人が集まれば、そこに会話が生まれ、まちに笑顔が溢れるはず。そんな空間づくりに携わりたいと思っています。
―将来の進路を考える子どもたちへメッセージをお願いします。
猪腰 ものづくりが好きな人や、人と関わることが好きな人には、ぜひ空間デザインの仕事に興味を持ってほしいです。でも、私自身がそうだったように、やりたいことが最初からはっきり決まっている必要はないと思っています。具体的な未来像がなくても、まずは興味を持ったことに挑戦してみる。その経験を積み重ねることが、いつしか自分らしい道を見つけることにつながっていくのだと思います。

猪腰さんが手がけた店舗。和とモダンを融合させた形で依頼主の想いを込めています。

独立して1年余り。県内はもちろん東京の店舗も手がける。
プロフィール
【お名前】
猪腰 和洋(いのこし かずひろ)さん
【最終学歴】
あさか開成高校
【趣味】
スノーボード
【座右の銘】
無病息災
※この記事はaruku2026年7月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。