「学生と社会課題の接点を作るのが教授としての私の役割」

福島大学での研究活動を経て現在は京都の立命館大学で教授を務める丹波さん。
―大学教授とはどんなお仕事ですか?また、大学教授になったきっかけを教えてください。
丹波 大学教授とは、学生に専門知識を教えたり、研究によって新しい知識を生み出したり、新しい知識を社会のために役立てたりする仕事です。私は社会福祉政策を専門分野としていますが、高校時代は法律や経済の道を志していて、社会福祉の世界に進むことになるとは思いもしませんでした。たまたま入ったのが福祉の大学というだけで、入学後も福祉を学ぶ意欲は低いままでした。大学在学中には阪神淡路大震災が発生し、ボランティアで被災地に向かった同級生もいましたが、その頃の私はボランティアというものをどこか偽善的に感じてしまっていて、支援に加わることはありませんでした。
転機となったのは、名古屋市の職員だった叔父からの紹介で障がい者施設の宿直のアルバイトをしたことです。そこで働く人々の仕事ぶりを目の当たりにし、福祉の奥深さを知りました。その後、名古屋市の知的障害児施設での勤務、専門学校や短期大学での講師経験などを経て今日に至っています。
―東日本大震災後の福島で災害復興研究に携わったのはどのような経緯だったのでしょうか。
丹波 福島大学行政社会学部に助教授として着任した2004年の10月、新潟中越地震が発生し、被害が大きかった旧山古志村(現長岡市)で生活再建や地域復興について調査研究に携わったことが一つのきっかけです。その後、東日本大震災が発生。福島大学のキャンパス内には一時避難所が開設され、私も学生たちと共に支援に加わりました。そのときに目にしたのは、家族同士であっても離れて避難せざるを得なかったり、帰るあてがないまま過酷な環境で避難し続けなければならなかったりする人々の姿。福島で社会福祉に関わる者としてこの現実をしっかり把握・検証する必要があると感じ、双葉郡内8町村全世帯を対象としたアンケート調査を実施しました。アンケート用紙の郵送料だけでも多くのお金を必要とする大規模な調査でしたが、各町村から避難した人々に郵送される広報誌にアンケート用紙を同封してもらうなど、多くの方々の協力を得ながら調査を実施しました。アンケートの結果は復興事業や原子力賠償紛争審査会などの資料として活用されました。
―復興研究に関わった学生の反応はいかがでしたか?
丹波 多くの学生が大きな関心を持って取り組んでくれました。一方、就職活動で東京の企業の面接を受け、「福島は今どうなっていますか?」と聞かれたときにうまく答えられなかったという学生も多く、教える側として大いに反省しました。そこで、福島が経験したことを4年間でしっかりと知る機会を作ろうと、福島の現在と未来を実践的に学ぶ教育プログラム「ふくしま未来学」を学内に立ち上げました。2017年には立命館大学の准教授となりましたが、今も定期的に浜通りを訪ね、テキストから学ぶだけではわからないリアルな経験の場を学生たちと作っています。参加した学生の中には、地域の人々との交流をきっかけに浜通りが好きになり、大学卒業後に移住した人もいます。
―学生と接する際に心がけていることはありますか?
丹波 同じ目線に立つことです。研究に取り組むための仲間がたまたま学生だったという感覚で、「学生のために」「教えてやっている」などといった考えで彼らと接したことはありません。ただ、学生が何の接点もないところから社会や社会の課題に踏み込んでいくことは難しい。その接点作りが教授としての私の役割だと思っています。
若い人と関わるうえでは、お互いの話がなるべく噛み合うよう、彼らが興味や関心を持っていることに自分もできる限り興味を持つようにしています。
―現在はどのような研究に取り組んでいますか?
丹波 離島における持続可能な生活について研究を深めようと考えています。ある意味限られた条件の中で、ごく少人数のコミュニティの人々はどのように生活を成り立たせているのか、大きな興味があるんです。ただ、研究の成果を学生に伝える場合、その成果が自分の経験から生まれたものでなければ説得力は感じてもらえないでしょうから、1年の半分は福島、もう半年は離島で暮らすなどしてリアルな離島生活を経験するのもいいかなと思っています。
―これから大学進学を目指す子ども達にメッセージをお願いします。
丹波 大学生活をどう送るかは自分次第です。勉強よりも遊びに没頭しながら卒業するのも自分ですし、アルバイトに精を出す日々を送るのも自分。選択は自由です。ただ、私のように、大学時代に何を経験するかでその先の人生が大きく変わることもありますから、幅広い分野に積極的に関心を持ちながら学生生活を送って欲しいと思います。

福島大学での研究活動を終えた今も定期的に浜通りに足を運んでいるそう。

トラクターを操縦する丹波さん。「自ら経験し説得力のある言葉を学生に伝えたい」と言います。
プロフィール
【お名前】
丹波 史紀(たんば ふみのり)さん
【最終学歴】
日本福祉大学大学院社会福祉研究科博士後期課程中退
【趣味】
人と出会うこと
【座右の銘】
まずはとにかくやってみる
※この記事はaruku2026年8月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。