パン職人|プロフェッショナル夢名鑑

売り場を何周もしながらどれを買うか悩んでいるお客さんの姿を見るとうれしいです

小学1年生と2年生のお子さんがいるという渡部さん。手にしているのは看板商品の「つのパン」。

普段のお仕事を教えてください。
渡部 お店では毎日110~120種類のパンを焼いていて、平日は1500個、土日は2,500~3,000個を販売しています。開店が朝7時半の土日は朝2時、朝8時半に開店する平日は朝4時に出社して、生地の仕込みをします。従業員がそろうと、役割分担をしてパンを発酵させたり、生地をこねたりする作業がスタート。私は窯でパンを焼く作業を担当していて、開店時間に合わせて、なるべく焼きたてを売り場に並べられるようにしています。11時ぐらいまではトイレに行く暇もないほど焼き続けています。

パン作りで特に大変なことはどんなことですか?
渡部 パンは、小麦粉で作った生地を発酵させることで膨らみます。しかし、発酵は気温が高いと進みやすく、低いと進みづらいもの。毎日同じ場所で同じ時間、発酵させたとしても仕上がりがまったく違ってくるのです。そのため、美味しいパンをお客さんに届けるためには、温度や状態を見極めて、発酵の時間や場所を変えるなどして調整しなければなりません。パン作りは工程が多く、当店はたくさんの種類のパンを取りそろえているため、必要な作業が多い職場です。

仕事のやりがいはどんなことですか?
渡部 お客さんに楽しんでもらうことを第一に考えて多くの種類を焼いているので、お客さんが売り場を2周も3周もしながらどれを買おうか悩んでいる姿を見かけると、とてもうれしいです!たくさん焼いたパンが完売すると達成感があります。

パン職人になろうと思ったきっかけは何だったのですか?
渡部 もともと東京の証券会社で働いていたのですが、30歳で退職して地元の会津若松市に戻ってきました。手に職を付けて、小さくても何かのお店をやりたいと考えていたのです。まずはパンとケーキを製造・販売する会社で3年間、製造に携わりました。そこで、生活に身近な存在であるパンを作ることは自分に合っていると感じたんです。はじめはパンのことを何も知りませんでしたが、作り方によって味や焼き具合にダイレクトに違いが現れるパン作りの奥深さに、どんどんはまっていく感覚がありました。例えば、フランスパンはシンプルなパンですが、時間をかけてじっくりと焼くことで素材の甘みを引き出すことができ、それがかっこいいと思うようになっていきました。

夢だった自分のお店を開業するまで、どのように修行されたのですか?
渡部 いくつかのパン屋さんで勤務した後に、パン屋をプロデュースする東京の会社に入社。長崎県、京都府、新潟県などで、オープン直前の店でパン作りを教える仕事をしました。そこでさまざまな店を渡り歩いて商品や売り方の知識を身に付けたことで自信がつき、40歳の時に夢だった自分のお店を持つことができました。それが、郡山市新屋敷にあったフォンデュの最初の店舗です。

オープンして最初の頃はどうでしたか?
渡部 これまでの経験をもとに開業したので、人気のお店にできる自信があったんです。でもいざオープンしてみると、お客さんは全然来なくて。チラシを配って地道に宣伝したり、ご当地パンのクリームボックスを始めたりと、地域に溶け込むにはどうすればいいのか考え続けました。現在も看板商品の「つのパン」を開発したのも、その頃です。つのパンはドイツのパンをヒントにした、普通のパンとフランスパンの間ぐらいの堅さの、三日月形の商品です。外はカリッとしていて、噛むとじわじわと旨みが出てくる。これが話題になると、お店の人気も出てきました。そして3年前に、現在の場所に移転。店舗も駐車場も広くなり、お客さんの数も増えました。

パン職人に向いている人はどんな人だと思いますか?
渡部 毎日早起きができて、細かい工程をさぼらない、まじめにパンに向き合える人だと思います。生地をこねたり、形を作ったりするパン職人は手先が器用な人が多いと思われがちですが、私は器用なほうではありません。ただ、まじめに努力したから何とかなっているのだと思います。

これを読んでいる子どもたちにメッセージをお願いします。
渡部 夢に向かって努力する時間はとても充実していますし、夢を実現させてからも勉強は続きます。店を続けていくことは大変ですが、それ以上にやりがいを感じられて、楽しく暮らすことができています。これを読んでいるみなさんも、夢の実現に向かって頑張り続けてほしいです

パンを焼く作業は体力のいる仕事だといいます。

焼きたての多くの種類のパンを並べることは創業当時からのこだわりです。

お名前
渡部(わたなべ)さん
出身
会津若松市
最終学歴
千葉商科大学経済学部
休日の過ごし方
家族と過ごすこと

※この記事はaruku2024年3月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。

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