「自分で想像し、考え、形にできる。それが経営の一番の面白さ」

社長に就任し3年。従来の電子部品製造業を安定成長させつつ食品製造の分野でも手腕を振るっている樽川さん。
―社長に就任したのはいつですか?
樽川 2023年1月です。アルファ電子は私の祖父が立ち上げた電子部品の製造会社で、私の前は父が2代目として事業を拡張していました。
―お父様が事業をしていることを理解したのはいつ頃でしたか?
樽川 物心がつく頃にはもうわかっていました。もともと町工場のような雰囲気の会社だったので、学校が終わってから会社に遊びに行くこともありました。ただ、私は3姉妹の次女でしたから、自分が継ぐことなど一度も考えたことがなかったんです。介護の仕事に就きたくて、高校卒業後は東京の短期大学で学び、卒業してすぐ都内の老人ホームに就職して働きました。その後、体調を崩したことなどもあって福島に戻り父の会社で働き始めました。
―経営に関わるようになったのはいつ頃からですか?
樽川 きっかけは東日本大震災です。地震で工場が半壊状態になっただけでなく、震災後の風評被害が電子部品にも及び、大口のお客様が離れていきました。震災の前年に娘が生まれてきたため私も一度は新潟に避難しましたが、何とか会社を立て直そうと必死に経営を続けていた父を見て、私も何かやらなければと思い、徐々に経営に関わり始めました。
―どんなところから経営に関わっていったのでしょうか?
樽川 経営者の娘といってもそれまでは専業主婦。そんな人間が一期なり経営に入っても社員に信用してもらえないだろうと思い、職業訓練校に通って薄記の資格を取得しました。その知識をもとに見た会社の経営状況は非常に厳しいもので、大胆に改革せざるを得ませんでした。せっかく父が積み上げてきた取引先との関係を解消するような決断もあり、意見がぶつかることもありましたが、会社をよくするためには私が悪者にならなければならないと割り切りました。社長に就任してからも、経営状況は良い年もあれば悪い年もあります。しかし、悪い年から学ぶことは多く、自分の成長につながっていると感じます。
―自社開発した米粉の麺「う米めん」が人気です。どんな経緯でスタートしたのでしょうか?
樽川 経営改善の一環として新事業の立ち上げを考え、その方向性を探るなか、たどり着いたのが食でした。料理が好きでしたし、娘にアレルギーのある時期があったり、自分も体調を崩した時期があったり、介護の仕事を通して食べることの大切さを実感していたりと、人生のなかで食に対するさまざまな気づきがあったんです。そんなとき、新潟へ避難していた時期に出会った方から米粉の存在を教えていただきました。グルテンフリーなので小麦粉アレルギーを持っている方も安心して食べれますし、米という日本の資源ともいえる食材を活かせる商品であればビジネスにも発展性があると考えました。補助金などを活用して工場を建てました。そして現在はさまざまな太さの「う米めん」に加え、ワンタンや米粉シートなども製造しています。
―経営で大切にしていることは何ですか?
樽川 お客様はもちろん、社員に対しても感謝を忘れないことです。仕事上で関係ある方だけでなく、父や母、夫や娘、全員に感謝しなければならないと思っています。また、経営者になるうえで決めていたのは、困難を誰のせいにもしないことです。「親に言われて社長になった」などと考えてしまうと、大変なことが起きたときに親という逃げ道が見えてしまいます。それでは経営者として強くなれません。常に自分の逃げ道をなくし、自分で決めたことに責任を持とうと考えてきました。
―そうした日々のなか、リラックスできるのはどんなときですか?
樽川 娘と過ごす時間です。仕事がどんなに大変でも、家に帰って娘と過ごせば気持ちが充電され、また頑張ろうと思えます。娘が以前、将来の夢に「お母さんの会社を継ぐこと」と書いてくれていたことがあって、うれしかったですね。継ぎたければ継げばいいですし、大人になったときに「継ぎたい」と思える会社にしておかなければとも思っています。
―経営者として子ども達へメッセージをお願いします。
樽川 自分を想像し、考え、形にできること。それが経営の一番の面白さですし、とても夢がある仕事だと思います。私が子どもの頃は「女の子はこうあるべき」といった考えがまだまだ根強い時代でしたが、「女性だからダメ」という仕事はどんどんなくなってくるはず。夢さえ描ければどんなことでも形にできると思います。やりたいこと、実現したいことがあるなら、ぜひ経営の道を目指してほしいです。

天栄村の本社工場。近年は医療機器の製造に力を入れています。

自社で開発・製造する「う米めん」。今後は原材料となる米の栽培にも乗り出すそう。
プロフィール
【お名前】
樽川 千香子(たるかわ ちかこ)さん
【最終学歴】
淑徳大学短期大学部社会福祉学科
【趣味】
料理を作ること、お酒を飲むこと
【ポリシー】
人事を尽くして天命を待つ
※この記事はaruku2026年5月号に掲載したものです。内容は取材時のものです。